ショートショート「酔っ払いと立方体」
パンデミックに一区切りが付き、夜の街に活気が戻りつつあった。
知人との飲み会を終わらせて、F氏は帰路についていた。
駅まであと100メートルほどのところで、若い女性がなにやら行き倒れていた。どうやら酔っ払っているらしい。
「大丈夫ですか」
声をかけてみるが、反応はない。寝てしまっている。
F氏は困ってしまった。声をかけた手前放っておくのも気が引けるし、揺すり起こせば痴漢扱いされかねない。
彼女の家族や友人に連絡してやれるといいのだが。
F氏は女性の持ち物に目をやった。
バッグから、白い立方体が落ちている。3センチ四方といったところだろうか。
何気なく拾い上げる。箱や入れ物かと思ったが開かない。何かが入っている気配もない。
ただ、よく見ると一面だけ、小さな窓がついていた。
F氏は恐る恐る覗き込んでみる。
まばゆい光が見えた。
この世で最も美しい宝石が入っているのではないかと思えるほどの。
そうか、これは万華鏡になっていたんだ。
ラビリンスボックスというやつか。
しかし、なぜこんなものを彼女は……
そう考えたあとのことは、よく覚えていない。
F氏が次に目を覚ましたのは、万華鏡のように揺らめく……
(おわり)
※このショートショートは #ショートショートnote を活用し執筆しました。(執筆時間:約30分)
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