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ロボット劇作家の作品

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尾崎太祐が書いた脚本・小説をまとめたマガジンです。すぐ読める掌編が多めです。
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#おうちで読もう

目の前にある、遠くのほし

「ここ数日、急に寒くなったよね」 「ほんとにね」 「あ、クリスマスツリー!」 「お、きれいだねえ」 「てっぺんにある星、大きいね」 「うん、きらきらしてる」 きみは、わたしにとっての「ほし」だった。 空を見上げると、昼も夜も輝いていて、 季節が変わっても、ずっとそこにある大きな星。 手が届きそうでも、のばした手は届かなかった。 みんなが憧れていて、わたしもその中のひとりだった。 たくさんいる中の、ほんのひとり。 願いをかけてみるけれど、そんなこと、簡単には叶わなくて。 わ

ショートショート『聴こえるガラス』

聴こえるガラス作:尾崎 太祐 私には、なによりも大切にしているものがある。 おわん型のきれいなガラス細工。 見ているだけでもうっとりするが、ある時、「音」が聴こえることに気がついた。耳に当てると、いろんな音が聴こえてくる。 きらきら……カランコロン…… その時々によって音が違う。 さらに驚くことには、私の心を見透かしたかのように「聴きたい音」が聴こえてくることもあった。 その音は、日に日に鮮明になっていく。まるで声のようだ。耳元で語りかけてきては、私の心を満たしてくれた

散文詩『雨風の音、空の声』

きょう(2020/04/18)、東京は洪水警報が出るほどの大雨。 雨の音を聞きながら、こんな日のための詩を書きました。 ※この作品は #おうちで読もう に参加しています。雨の日にでも朗読していただけたらうれしいです。一人称はご自由にどうぞ。 雨風の音、空の声作:尾崎 太祐 梅雨入りにはまだ早いのに、降り続ける雨。土砂降りの雨。 「空が泣いている」だなんて、詩のような表現があるけれど、 これじゃあ号泣だ。 遠くでサイレンが鳴っている。 まるで、世界が終わってしまうことを伝え

短編小説『3つのひみつ』

この春、秘密に悩む女の子のおはなしです。年齢はご想像におまかせします! ※この作品は #おうちで読もう に参加しています。朗読して、公開いただけたらうれしいです。 3つのひみつ作:尾崎 太祐 登場人物 女子学生 春休みの宿題を終わらせながら、きみと電話する。 ふと、きみをからかいたくなった。 「ねえ、『さんみつ』って知ってる?」 きみの声、呆れた返事。 そりゃそうか、最近さんざん見た言葉だ。 じゃあさ、わたしの――と続けそうになって、思わず黙り込む。 わたしの秘密、知

短編小説『てのひらとえがお』

子どものころ大切だったものを思い出しながら、読んでいただけたらうれしいです。 ※この作品は #おうちで読もう に参加しています。あなたに朗読していただけたら、もっとうれしいです。 てのひらとえがお作:尾崎 太祐 冷たくて暗い箱の中から、 ボクを見つけてくれたのはキミだった。 はじめて見たキミは、とってもきらきらしてたね。 あの顔、「笑顔」っていうんだっけ。 その日から、キミのあったかい手のひらが、ボクの居場所になったんだ。 キミはいろんなことを、ボクに話してくれたね。