価値観の変遷

チェ・ウニョン氏の「明るい夜」という小説を読んだ。出版社は亜紀書房。恥ずかしながら存じ上げていない出版社だったので少し調べてみると海外、特に韓国の翻訳ものを多く出している出版社らしいことがわかった。
韓国の本はもしかしたらずっと昔に読んだことがあるかもしれないが、もう記憶にないくらいなので初めて韓国の小説を読む気持ちで読み始めた。

ここからはネタバレを含むかもしれません。嫌な方はこれ以上読み進めないことを推奨します。

簡単にあらすじを書くと、離婚した女性が、昔少しだけ会ったことのある祖母の町に引っ越し、そこで暮らしながら祖母が今までどのように生きてきたのかを聞く。という話だ。
扱っている年代は第二次世界大戦が始まる前後の日本軍が朝鮮を支配していた時代から現代までであり、朝鮮の近現代を舞台にしている。
年が少し離れた方と話しているだけでもジェネレーションギャップといって今の自分の考え方が違うことがあるのだから、100年くらい前の、ましてや自分とは違う国の方と少し考え方が違うのは当然のことなのかもしれない。つまり何が言いたいかというと、何人かの出てくる登場人物の考え方が現代に生きている多くの日本人の考え方が少し違うところがある、ということだ。
例えば、昨今の日本では不倫は許されない論調にあると思う。名のある芸能人が不倫をしている、していたことが露見されるとSNS上で炎上し、報道番組もそのことを大々的に報道し、かつてのような芸能活動が出来なくなることも、よくある話だ。ところが本作の登場人物の一人は男性の一度の不倫なんて許すべきだ、といったような考えを口にする場面がある。
ほかにも、今の日本人の多くの方の価値観と少し違う、不条理であると感じるところが出てくるので、その時代の朝鮮の方の価値観はこんな感じだったのかもしれないのか、と勉強になる。
現在我々が普通、当たり前だと考えていることも、後の時代の人から見れば違和感や不条理であると感じる価値観なのかもしれないということは想像しやすい。では、その価値観が変わる転換期、きっかけはどういったものなのかというのは色んなことが推察されるのでここではその話は脇に置いておくことにする。ともかく、「今自分たちが当たり前に考えていることは間違っているかもしれないよね」と念頭に置くことは大切だ、という当たり前のことを本作を通して再び実感することが出来た。
もうひとつ私が本作を通して感じたことは人間が単純に出来ているわけではない、ということを詳細に書いている部分が多いということだ。ある登場人物はどの面から見ても良い人で、別の人は悪者だ、というのは物語の中でよくある。しかし、実際の人間は、これも当たり前のことなのだが、いい部分も悪い部分も両方含んでいる。他には、昔は仲が良かったけど今は疎遠になってしまった人間関係などが詳細に書かれているように感じた。こういった部分を文字を通して、物語を通して、感情を持って実感することが出来るのは、小説の良いところだなと再認識した。


今回をきっかけに韓国のほかの作品も読んでいきたいと思った。

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