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【大回りワンイチ】自転車旅1日目.横浜〜房総半島外周

20代最後の旅が、大阪〜横浜なら、30代最初のひとり旅はいつになるのか。
そんなことを思っていたらやってきた、妻が友人と旅行に出かけるという大チャンス到来。

手元にはそれなりに貯まった楽天ポイント、そして全国旅行支援。今しかない。

どうせなら海を見ながら走りたい。しかし目をつけていた静岡は旅行支援の予算消化済み。

同じ半島の千葉はどうだろうか。あんまり人気なさそうだし。(千葉県民の皆さま申し訳ない)
狙い通り、旅行支援もまだ使えた。

よし。房総半島を走ろう。

1日目のルート(予定)

実は千葉には前々から行ってみたかったところがある。館山だ。

仕事でお世話になった老牧師が最後の招聘地として働いた場所。
「夕陽がとてもきれいでね」
文学と奉仕をこよなく愛し、美しく優しい言葉で、説教やエッセイを書いてくださる。
20代半ばだった若造にも、優しく親身になって仕事をしてくれる姿に「こんなふうに歳を取りたい」そう思わせてくれる方だ。

その人を思いながら、館山の夕日を眺めて時を過ごしたい。
ということで、海辺の民宿を予約し、いざ出発。

夜の都内は明るいうえ、車も少ないので走りやすい

初日は横浜から千葉市を経由して、九十九里浜へ。そこから海岸線沿いに引かれた「太平洋岸自転車道」を走り房総半島グルっと回り、館山まで走るルート。

早朝4時に横浜を出発し、まだ暗い東京を走る。
まだ暗い日本橋。
なんて趣があるんだ。

「日本橋」ここに来ると「旅人」になった気分になる

いつかはキャノンボール(大阪〜東京24時間)に挑戦してみたいと思っている身としては、日本橋はその聖地だ。
ふと見ると、反射ベストを着た自転車乗りが立っていた。
「もしかしてキャノンボールですか?」
と声をかえると、「そうです」と嬉しそうに話してくれた。
レトロなクロモリバイクにフラットペダル。
すごいなぁ…と思いながら、互いの安全と健闘を誓い旅路に着いた。
今思い返すと、出発まで見送って差し上げればよかった。

キャノンボールに出発していった「とろろ蕎麦大好きおじさん」(Twitter名)

江戸川を渡る頃には、空も明るくなり、千葉市街に入る頃には通勤ラッシュの時間。
働きに出る方々を横目に、東金街道を外房に向かって走る。
てっきり峠を越えるものだと覚悟していたが、ダラダラした登りを終えるとあっと言う前に下り道。なんだ。

あとは九十九里浜までまっすぐ走るだけか。

そう思い、走り続けること1、2時間。いつまでたっても海が見えてこない。

おかしい。

そうして見えてきた「匝瑳市」(そうさ市と読むらしい)の標識。

どこだここは。

実は東金街道(国道126号線)は、東金市に入ると九十九里浜の方には向かわず、銚子に向けて北に延びる国道。どこかで右折しなければいけなかった。

左折してるようにも見えるが、道なりに行くと北上する道だった。

やっちまった。
ゆるやかなカーブに気づかず20キロ近く逆方向に走ってしまった。

これでは予定していたチェックイン時間(15時館山着)に間に合わない。
今日は何としても館山で夕日を見たいのだ。

ここからはペースを上げて走ることに。
まずは、来た道を戻るより、海沿いを走った方が良さそうだと考え、海の方面に走ること30分弱。今旅の主要道路、「太平洋湾自転車」に到着。

しかしどうしかことか。
海側には林や公園が並び、確実に海の横を通っているはずなのにどこまで走っても全く海が見えない。

海沿いには有料道路。海はどこか。


気づいたら、海側には自動車専用有料道路。
自転車はダメなのか。

というか海はどこだ。

しばらく走ると少し道が高くなってきた。
ここなら海が見えるか…というところでも、嫌がらせのように、塀やら街路樹やらで海を隠してくる。

なんなのだ。
金を払わない者には意地でも海は見せないぞという気合すら感じる。千葉県さんよ。

いや。もしかしたら、気づいていないだけで、富山県のような海沿いに遊歩道やサイクリングロードがあるかもしれない。
そう思い、足を止めて海側に延びた道に入ってみた。
松林を抜けると、

「海だ…」

九十九里らしい砂浜に、激しく涙が打ち寄せていた。

さて、サイクリングロードはどこか。

ない。
当然だがGoogleMAPで見てもない。
松林の中に細い遊歩道があったが、自転車では危険だ。

仕方なく、もとの道を走る。
両サイドは、林や民家や、食堂、民宿…。

もうよい。
どこかの食堂にでも入って地元の魚でもいただこうと思っていた気持ちはどこかに行き、いつものようにコンビニに入っておにぎりやら、ジュースやらを買い込み、お昼とする。
レシートを見ると700円ちょっと。
やっぱりどこか入ればよかった。

九十九里浜が終わる頃になるとようやく視界が開けてきた。どうやらここだけ、まだ松を植林中のようだ。
広い浜辺を見ながら走る。
こういう道を走りたかったのだ。

しかしそんな区間はほんの一瞬。
非課金ユーザーには九十九里浜は厳しかった。

そこから洋岸自転車道は内陸に向かって延びていく。
御宿町、勝浦市、鴨川市、南房総市、館山市と昔からの港町と港街を繋ぐように走る、半島の海岸道らしい道。

どことなく自分が育った香川県の寂れた港と重なって見えた。
港の港の間はだいたい軽い登り。しかし、伊豆半島と比べると平坦に等しいくらいの登りで走りやすい。

鴨川市ではひとつミッションがあった。
前日に「鴨川シーワールドの横通るよ」とシャチ好きの妻に伝えると、「シャチによろしく伝えといて」と。
シーワールド入口で、シャチのオブジェに向かって「よろしく〜」と手を振って、証拠の動画を撮る。側からみたか確実に怪しすぎる光景だ。人影がほぼなかったのが救いだが、従業員さんからの視線は痛かった。
何はともあれミッションコンプリート。

「シャチによろしく」する図

房総半島最南端の館山市に入ると、半島らしいゴツゴツした海辺の横を走る道を走が続く。
場所によって岩の形状も異なっていて面白い。


植物園の廃墟。温室を破るほどに育った南国の植物がいい雰囲気を醸し出している。

こういう道は景色を楽しみながら走りたいところだが、スピードを出して走ってきてことが仇となって、身体中に痛みが出てきた。
走行距離はちょうど200kmは超えたあたり。
特に、今回はDHバーを付けずに走ったこともあり、肩や腕に強い痛みが出ることになった。
痛みがあると、その時間の喜びも半減する。
コンビニで肉まんを頬張った後、カロナールを投入。
これで残りの道もマシになるはず。

明治の文豪・菊池幽芳の小説「己が罪」の重要な舞台となった南房総市白浜町の根本海岸の「かぶと岩」

30分も過ぎると薬の効果で、痛みも和らいできた。

館山市街に入る前に夕暮れに差し掛かってきた。
館山の海岸で、黄昏れながら夕日を眺めるという当初の計画はおじゃん。
というか頭上の空には厚い雲がかかっている。
ただ幸運というか、遠くの西の空は晴れ空が広がっているようで、三浦半島の空が美しく輝いていた。

「夕暮れに、なお光あり」
仕事で担当した連載企画のタイトルを思い出しながら、水平線上に広がった夕日を眺めながら館山市街に無事到着。
コンビニでご褒美を調達したあと、予約していた宿「民宿かやま」にピットイン。

宿のすぐ前に広がるビーチ

サイコンを確認すると255kmの数字。
当初の予定は210kmだったが、いい感じの距離を走れたことに心なしか満足した。

「あぁぁ…」
お風呂に入ると、あまりの心地よさに変な声が漏れた。

夕食。
地元の海鮮とともに「これぐらい食べれるわよね」という女将さんから差し出されたのは、普通ならお吸物を入れるであろうお椀。
開けると「2合ぐらいあるのでは」と思うような盛りに盛ったごはん。
ついでもらった以上「無理です」とは言いたくないし、それなりにお腹も空いていたので、「余裕です」と、笑顔で応えて、いただきます。

疲れた体にしみた晩御飯。

30代になっても、今のところへたれていない胃袋で完食し、心地よい満腹感で眠りについた。

二日目は、館山から金谷港、そして三浦半島を一周します。


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