私は言葉を持たなかった
最初から与えられなかったのか
どこかに置いてきたのか
全部使い切ってしまったのか
わからない
まあ、いいか
ひとりぼっちなら、必要ないもの
私は歩き続けていた
ただひたすらに黙々と
脳裏が不安で埋め尽くされ
喉がカラカラに渇いて
足がだんだん重くなり
ぴたり
とうとう私は立ち止まった
歩き続けなきゃいけないのに
私は眠りについていた
深く深く深く落ちていくと
そこには大きな木が立っていた
力強く儚げな
その木には一枚も葉がついていなかった
枯れてしまったのかしら?
私はその場に座り込み、木の幹に寄りかかった
木はずっとずっと、押し黙っていた
私もずっとずっと、押し黙っていた
…そういえば、植物には、太陽・空気・水が必要なんだっけ
何が足りないの?
何をあげれば葉が生えてくるの?
わからない
まあ、いいか…
私は待っていた
だがいつまで経っても、葉が生えてくることはなかった
葉がない木は、寂しそうだった
そして私も、寂しかった
私はただ、木の側に寄り添っていた
温かな陽の光を浴びて
穏やかな風に吹かれ
急な冷たい雨に打たれ
ちらつく雪で視界が曇り
おぼろげな月に照らされ
満天の星を仰ぎ見た
だがいつまで経っても、葉が生えてくることはなかった
葉がない木は、寂しそうだった
そして私も、寂しかった
私はおもむろに木を抱きしめて
声を上げて泣き出した
辿々しくていいんだよ
間違っていてもいいんだよ
ただ君の声を聞かせて
…………
どれくらいの時間が経ったか
わからない
…………
ある時、ぱっと、木が ”話し出した”
一枚の青い葉が生えたのだ
伝えたい
きっとただ、それだけのために
その葉は小さくて、瑞々しくて、どこまでも純粋だった
木は意外とお喋りだった
その木が喋れば喋るほど、みるみる葉が生い茂った
それらの葉はただ、私の側に寄り添っていた
私を強い陽射しから守り
かすかな木漏れ日でくすぐり
葉ずれの音でさわさわと風を教え
雨粒と雪を受け止め傘になり
漆黒の影になって月と星の明るさを際立たせ
鮮やかな彩りで私の心を奪ったりした
そしていつしか散り
私の足元に積み重なり
腐葉土になった
木は、また一本の、葉のない木に戻った
だがもう、寂しそうには見えなかった
私ももう、寂しくはなかった
私はその場に座り込んでいた
…あれ?
ちょっと眠っちゃったみたい
なにか夢を見ていたような…
わからない
まあ、いいか
私はまた歩き出した
言の葉を
胸に抱いて
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