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忘れられないマンドラ奏者

この時期になると必ず思い出すマンドラ奏者の先輩がいます。実名は避けますが分かる人には分かるでしょう。

その先輩は今から19年前に交通事故で亡くなりました。大学3年生でした。
亡くなったのは定期演奏会の2週間くらい前で、オーケストラは悲しみと焦燥感に駆られていました。その方は3年生ながらマンドラパートの首席奏者でした。事故を知ったときの悲しみは今も覚えています。とにかく誰かと話をしたくて部室に行ったのですが、みんな泣いていて話どころではありませんでした。

2週間後の定期演奏会のメインは、ムソルグスキーの『展覧会の絵』でした。何と言ったら良いのでしょう…作者のムソルグスキーは夭折した友人画家の遺作展から得られたインスピレーションをもとに作曲したのです。何かと何かを結びつけるのは、ただの解釈に過ぎないということは分かっているのですが、この曲の作曲背景を思い出さずにはいれません。

ちょっと話は逸れますが、この曲を4年後に別のオーケストラで演奏した年には実父が亡くなりました。63歳でした。『展覧会の絵』は大好きな曲ですが、私には悲しい因縁がつきまとい、人前で演奏することはもう無いでしょう。

話を先輩に戻します。先輩の葬儀で、「くるみ割り人形」を演奏したことを覚えています。クリスマス時期でもあり、オーケストラの十八番の1つでもあったのでうってつけでした。葬儀の時は感傷的になっていなかったのですが、帰り道にマンドラパートの同期と話しながら帰った際に堰を切ったように涙があふれてきました。

とても人望の厚い先輩で、演奏面でも運営面でもオーケストラの中心的存在でした。葬儀には1000人近い参列者が集ったそうです。学生でこの人数は人徳の厚さを示していると思います。私は高校からお世話になっていてトータルで5年ほどの付き合いでした。30代後半から見ると、なんと短い付き合いだったのでしょう。

「出会った瞬間から、その人との別れまでのカウントダウンが始まる」

今年知った一節ですが、この言葉が身に沁みます。

先輩とはもう会えませんが、今の友人とこれから出会う人との日々を大事にしようと思うのが毎年の12月です。

気分を害したら謝ります。しかしこの12月には思い出さずにはいられない大切な方なので記しました。書くことは私にとって癒しでもあります。
寒さが厳しくなってきました。どうぞ皆様ご自愛ください。それと同じくらい周囲の人も大事にしてくれたら、物書きとしては嬉しい限りです。

最後までご覧いただきありがとうございました。それではまた。

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