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安く生産することに力を入れるよりも、より良い財やより多くの財を生産して分配することに力を入れるべき


生産したものは分配できるが、生産しなかったものは分配できない

 あるものを10個生産すれば10個分配できますし、100個生産すれば100個分配できます。10個しか生産してないのに100個分配することはできません。当たり前ですね。
 そして、みんながどれだけ大金持ちでも、みんながどれだけ貧乏でも、インフレ率が高かろうと低かろうと、円高だろうと円安だろうと、「国の借金」が多かろうと少なかろうと、100個生産すれば100個分配できることに変わりはありません。
 そして「必要な財」(人々の幸福に資するモノやサービス)の生産と分配が多いほど人々をより幸福にすることができます。
 ということは、必要な財をより多く生産して分配することの方が、こういったことよりも重要だということになります。

 たとえば株式投資などのマネーゲームには勝者と敗者がいますが、両者に共通しているのはどちらも財を生産していないということです。なのでみんながマネーゲームに夢中になり、その結果必要な財の生産がおろそかになれば、たとえ株価が上がってみんながお金持ちになれたとしても、全体で見れば人々は不幸になったことになります。
 マネーゲームでお金を稼ぐよりも、働いて必要な財を生産してお金を稼ぐ方が、全体で見れば人々の幸福に繋がります。

安く生産することに力を入れるよりも、より良い財やより多くの財を生産することに力を入れる方がいい

 既にある財(モノやサービス)を安く生産することに力を入れ、そして販売価格と販売量がこれまで通りの場合、企業利益は増えますが、生産と分配という観点から見れば何も変わっていません。これまでと同じ財が同じ分だけ生産されて分配されているだけです。
 安く生産することに力を入れるよりも、より良い財やより多くの財を生産することに力を入れれば、より良い財やより多くの財を分配できるようになります。この場合も企業利益は増えると思います。
 どうせ力を入れるならより良い財やより多くの財を生産することに力を入れた方がより多くの人を幸福にできます。

 とはいえ、人々があまりお金を持っていなければ、より良い財(より高価なモノやサービス)やより多くの財を生産してもあまり売れないので、結局人々の懐具合にあった財が生産されて分配されることになります。
 すると以下のような状況になり、いつまで経ってもより良い財やより多くの財が生産されない可能性があります。

1.人々の懐具合にあったそれなりの財への需要が生まれる
2.それなりの財が生産され、分配される
3.それなりの賃金が支払われる →1にループする

 また、このような現状維持が続くだけならまだいいのですが、もしこの状況で政府が増税をしたり、企業が人件費を削って内部留保を増やすなどして人々の所得が減れば、財の生産と分配が減って人々は不幸になります。

 ではより良い財やより多くの財の生産と分配が行われるようにするにはどうすればいいかというと、色々な方法があると思いますが、一番シンプルなのは政府が国民にお金を配ることだと思います。
 お金を配れば国民の所得が増えます。所得が増えたことで買う量を減らしたりなるべく安いものを買うようにする人はまずいないと思います。逆により良い財やより多くの財を求める人が増えると思います。消費者側がそのように変われば生産者側の多くもそれに応じて変わるでしょうから、社会全体で見ればより良い財やより多くの財が生産されて分配されることになります。
 ただし、あまりお金を配り過ぎると供給能力を大きく上回る需要が生まれ、その結果物価が上がり過ぎて経済に悪影響を及ぼす恐れがあるので配り過ぎないよう注意する必要があります。

 念のため書いておきますと、既にある財を安く生産するために研究開発したり無駄を省いて効率化を図ったりすることもいいことだと思います。これを否定しているわけではありません。ただ、より良い財やより多くの財を生産することに力を入れる方がもっといいのではないかと思うわけです。
 あと、安く生産するために低賃金で働く移民を入れるのは最低のやり方で、間違いなく多くの人を不幸にするでしょうからこういう方法はとるべきではないと思います。

実際のところどうなっているか

 以下のグラフを見ると、日本の大企業がここ20年以上にわたって一番熱心に取り組んできたのは、「より良い財を生産する」ことでも「より多く生産する」ことでもなく、「設備投資に回すお金や人件費を減らして配当金や経常利益(内部留保の原資)を増やすこと」だったのではないかと思います。

 日本の資本金10億円以上の企業の売上高、給与、配当金、設備投資等の推移(97年=100)
 http://mtdata.jp/data_65.html#houjin

 このグラフは2017年までのグラフですが、財務省の「法人企業統計調査」のページで最新の2022年までのデータを確認したところ、状況はあまり変わってないようでした。

 政府が国民にお金を配るだけで、設備投資や人件費に回るお金が大きく増え、より良い財を生産することやより多く生産することに今まで以上に力を入れるようになると思います。

限られたパイを奪い合うよりもパイを増やす方がはるかにいい

 限られたパイ(需要)を奪い合っても、仲良くパイを分け合っても、パイが一定であれば生産と分配の量は変わらず、人々をより幸福にし続けることは困難です。しかしパイを増やし続ければそれが可能になります。

 パイを増やす一番簡単な方法は、みんなにお金を配ることです。すると消費(需要=パイ)が増えます。
 需要が増えれば企業は生産を増やします。そしてそれが分配されます。人々がより幸福になります。
 供給能力を上回る需要があれば企業は設備投資をするなどして供給能力を高めて上回った需要を奪いにいきます。その結果さらに生産と分配が増えます。
 需要を増やし続ければ供給能力は高まり続け、生産と分配は増え続けます。その結果人々はより幸福になり続けます。
 パイの奪い合い(競争)も大事ですが、パイそのものを増やすことも重要です。

需要側にもっと目を向ける必要がある

 以上をまとめるとこのようになります。
・生産したものは分配できる。生産しなかったものは分配できない。
・より良い財を生産すればより良い財を分配できる。より多く生産すればより多く分配できる。
・人々の所得を増やせばより良い財やより多くの財の生産と分配が行われ、人々はより幸福になる。

 ならば「人々の所得を増やしてより良い財やより多くの財が分配されるようになること」を目的とするべきです。

 国債の発行、インフレ率の制御、為替レートの制御、生産性(付加価値労働生産性や物的労働生産性など)の向上、供給能力の拡大、などは手段であり、そして経済成長(GDPの増加)は結果に過ぎません。
 国債発行残高を減らそうと、物価を下げたり円高にしたりして通貨価値を高めようと、生産性を向上しようと、供給能力を高めようと、経済成長しようと、より良い財やより多くの財が分配出来るとは限りません。「国の借金」やお金の価値や供給側ばかりに目を向けるのではなく、需要側にもっと目を向ける必要があります。

 まずは人々の所得を増やし、そして人々が求める財を生産することが重要です。手段や結果ばかりに目がいって目的を見失わないようにする必要があります。


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