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Scarph

VRChatで知り合った友達が亡くなった。
連絡できなくなった頃から、そんな気はしてたけど。
でもどこかでまた会えると思ってた。

久々に感じた。死って重い。

彼のことは知らないことばかりだったけど、こんなにもまた話したいって思ってたんだな。
そんな気持ちを吐き出す書きなぐりのチラウラ日記。

出会い

たしか、JP Tutorial Worldで偶然だったと記憶している。
正確には覚えてないけど、確か彼は海外の人と話していたような気がする。

英語は僕なんかより何倍も上手で、しかも何故かエスペラント語も話せる。両親が外国人だとか、海外生活をしたことがあるということもなく、普通の日本人だと言っていた。
どうしてそんなに言語ができるかと聞くと、DuolingoとYouTubeで覚えたといっていた。

天才かよ!
即フレンド申請した。

言語

彼はエスペラント語が本当に好きで、僕に文法や規則を教えてくれた。
oで終わると名詞、asで終われば動詞。
接頭語としてmalをつけると否定になる。
とかそんな話を教えてくれた。
fullはsataだから、hungryはmalsata。
これが彼が教えてくれた最初の単語だった。

すごく面白かった。

エスペラント語の存在自体は知っていたけど、学習している人に会ったのは初めてだったし、実際に会話が可能なレベルで習得している人が目の前にいるなんて、興味が湧かざるを得なかった。

また、彼はただ言語を学びたいというだけでなく、特に人工言語に興味があるようで、トキポナ語の話もしていた。
トキポナ語は単語の数が120個しかない人工言語で、ジョージ・オーウェル著『1984』に登場する"ニュースピーク"のような言語だ。

そんな話をされては、僕の言語好きもくすぐられてしまう。
ちょうどその頃スティーブン・ピンカー著『言語を生み出す本能』を読んでいたため、サピア=ウォーフの言語決定論やその反証などを絡めて話してみたところ、すごく食いついてくれた。とても嬉しかった。

人工言語の面白さや多言語話者とはどんな存在なのか、といった議論を延々としていた。それこそ夜が明けるまで話し込んでいた。
お互いに知らない知識を共有できて、知的好奇心が満たせる最高の時間だった。

趣味

彼は普段Unix系のOSを利用していると言っていた。もう変わってる。
別にプラグラミングに興味があるとか、エンジニアになりたいとかそういうわけじゃないらしい。
ただただ、OSSコミュニティに興味があるようで、とくにGTK, GNOME, KDEのようなGUIツールキット周りのコミュニティを追っているようだった。

僕は仕事でUbuntuやCentOSを触ることがあり、そう言ったOSSの名前自体は知っていたが、大した知識はなかったため、彼の話は本当に興味深かった。

なんでこんな話になったのかを思い出した。
彼もVRChatユーザーなため、自分でアバターをアップロードしていて、テクスチャ改変などをしていた。
なんのソフト使っているか聞くと、Kritaを使っているといっていた。

Krita!? 大学生の頃触ったことあるぞ・・・メインで使ってる人初めて会った・・・。

どうしてKritaを選んだのか聞くと、
「開発にGUIツールキットのKDEを使ってるから。」
なんて斜め上の返事がきて衝撃だった。

なんなんだこいつ面白すぎるぞ!!!

心配

彼はいつも遅い時間にVRChatにログインして、明け方にログアウトしていた。
高校〜大学生くらいの年齢ということは知っていたが、ほぼ昼夜逆転のような生活をしていることに違和感を感じていた。

VRChatあるあるだが、色々な事情を抱えた人がいる。

彼は何も語らなかったが、会話の節々からなんとなく、病気や障害があるのは感じていた。

だけど、この状況は彼にとっては非常にうまく働いているようだった。
彼は外国の友達が多い。事実、彼の親友はフランス人だった。
英語話者の友達が多いということは、深夜帯が一番友達が活動しているというわけだ。

言語が好きな彼にとっては最高の環境だった。

それでも、なんとなく、本当にふんわりとだが、内心彼の身を心配していた。

最後の時

これも確かJPTだったと思う。2022年6月のことだった。

僕は初めてあった日から、こっそりとエスペラント語の勉強をしていた。
Duolingoを続け、文法解説なども読み、少しずつ知識を蓄えていた。
そしてこの日、エスペラント語で
「Mi lernis Esperanton, sed mi ne povas paroli. (私はエスペラント語を勉強しましたが話せません。)」
といってみた。
そうしたら、
「話せてる。十分話せてるよ!」
なんてすごく喜んでくれた。僕も嬉しかった。
やっぱ言語を学ぶ理由ってこれだよなって思う。
通じる。たのしい。

彼は次はGlobasa語という2019年にリリースされたばかりの新しい人工言語を勉強したいと語っていた。
僕がやっとの思いでエスペラント語を掴んできたのに、もう次の言語かよ!と思いつつ相変わらずだなぁと感心した。
しかし同時に、中国語も勉強しようかと悩んでいる様子だった。
僕も中国語を勉強して試験も受けていたので、とても嬉しくなったし、一瞬で追い抜かされるだろう焦燥感に奮い立たされる気持ちだった

世界中で使われている中国語は何かと便利だ。
だから中国語を勉強しておいた方がいいかもしれないと。

「通訳や翻訳の仕事をしてみたいのかもしれない。」
とぼんやりとした将来像を話してくれた。
絶対できるよと心から応援した。
その夜もいろんなことを遅くまで話した。

そしてその日を最後に僕が彼に会うことはなかった。

もともと、毎日オンラインになるような子ではなかったので、そのうち戻ってくるだろうと思っていたが、2ヶ月、3ヶ月とたち、全くオンラインになる気配がないことに不安は大きくなった。Discordで何度かメッセージを送ったが、返事はなかった。

そして時は流れ先日、外国人の共通の友達から、彼が2022年7月15日に19歳という若さでこの世を去っていたことを聞いた。
心臓発作での急死だったそうだ。元々心臓の病気を患っていたらしい。

正直なんとなくわかっていた。
でも、受け入れたくなかったんだと思う。

もっと話したかった。
エスペラント語で会話してみたかった。
中国語の学習速度に驚かされたかった。
語学力を生かした仕事に就くところが見たかった。
いつか会って、一緒に美味しいもの食べに行きたかった。

知るのが遅くなってごめんな。

Ripozu en paco Scarph.
Mi neniam forgesas vin.

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