団地の遊び 一階の下の部屋

一階の下の部屋

 子供の頃は、団地に住んでいた。
団地には遊ぶ所が多かった。中央公園やら集会所やら、公園もあちこちあった。団地内にいれば、安心という気持ちもあった。
 その中で一つ、もう二度と行くことができなくなった所がある。
 普段通りの団地。その団地の階段を上る、何段だったか忘れたが、多分四段ぐらいだったと思う、すると、一階になる。
 その、階段を上る前、横には郵便ポストがあり、当時は自転車置場としても使用されていた。
 自転車置場の奥、そこには小さいほぼ真四角の焦茶色したドアがあった。
 日頃から、これはなんだ?と思っていた。位置的には、部屋と部屋の間の下になる。厳密に言えば、そこは階段部分ではなく、平坦な所である。
 ある日、その自転車置場の奥の小さいドアが開いていた。置いてある自転車をかいくぐり、しゃがんでドアを開けた。暗くてよく見えなかった。かすかにガスのにおいがした。床はコンクリートではなく、白い石が敷き詰められている。
「これは懐中電灯がいるな」友人が言った。そんなわけで、懐中電灯を持ってきた。当時、自分は懐中電灯が好きだった。いや、今でも好きといえる。押入とかの暗闇の中を照らすのは、現在も何か好きである。
 中を照らすと狭い部屋になっていた。子供一人が、なんとか通ることができる程の狭いドアである。
 しゃがんでる状態から四つん這いになって中に入っていく。友人も続く。
 下は白い石が敷き詰められ、ジャリジャリと音がする。あぐらをかくと、頭が天井についた。自分が奥、友人が右斜め前に、やはりあぐらをかいた。ドアを閉める。すると、懐中電灯の明かりを消してもドアの隙間や壁の間から白い明かりが入ってきた。
 ちなみに懐中電灯は、駄菓子屋で百円で売っていたモノだ。単三電池一個、光量は小さい。点ける。
「これはいいな」「うん」
私の言葉に友人が頷く。まさに基地であった。基地は大好きだった。子供は基地が好きである。
 別になにをするわけでもない。ただ、そこにいて、ダラダラとテキトーに話す。
 この場所は、ごく限られた人にしか教えなかった。まず、三人しか入れない。四人はキツい。
 三人で車座になって、小声で話す。かすかなガスのにおい。階段を上る足音がする。ピタッと会話をやめる。足音が遠ざかる。再び話し出す。ジューシーフルーツグレープなんぞを互いに食べたりしながら。
 しかし、注意はしていても声は漏れていた。そのうち団地内でウワサになった。「階段の下から子供の声がする」
 すぐにも、その小さい部屋のことはバレた。親に、「あんた知ってる?」と聞かれ、当然、「知らないそんなとこあるの?」と答えた。
 やがて、そのドアに鍵がかけられた。
 その部屋の奥には、子供が通るのも小さい穴があって、ガスメーターの所につながっていた。一度その穴を強引に入って上にあがった。仰向けになって体を引っ張って上がった。そうしないと通れないし、ガスメーターの部屋もすごく狭く、体の向きを変えることもできない。
 あとで、知ったことだか、ガス関係の部屋だったのは間違いなく、いつもガスくさいのは、要するに安全な部屋ではなかったらしい。
 子供的には、せっかくの秘密基地が、なくなってしまった。
 この部屋は、団地内ならどこにでもあった。なので、入ることのできる所を今度は探した。しかし子供的にテリトリー的なことがあって、ようするにほとんど行かない団地の方ではダメだということに、自転車に乗って探し回って一時間後ぐらいに気づいた。だいたい近くないと、ダメなのである、
 こういう部屋は、ほかの団地にあるのかないのか知らないが、結構あるよ、なんて話かもしれないけども、私的には、ほんの短期間だが、自分たちで鍵でもつけようかと思う程の、ワクワク感があった。
 そんなわけで、一階の下の秘密基地は、わずかひと月ももたず、十歳の思い出として終わった。


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