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未来人の僕(回顧録)

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ベンチャー企業から、一代で世界的な大企 業へと育てた男、坂上ケンタ。 坂上ケンタの生い立ちは謎に満ちていた。 彼の死後、パソコンから、厳重に暗号化さ れたファイルが見つかった。 …
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#連載小説

『未来人の僕(回顧録)』

                   テール  この物語はフィクションです。 物語に登場する人物及び団体は架 空のものです。実在の人物および 団体とは一切関係ありません。 登場人物 〇坂上ケンタ  未来人。本編の主人公。西暦2325 の未来から、西暦2025年の現代へ 来たタイムトラベラー。 年齢27歳。将来の事業の成功を夢 見る若者。 〇井上綾香  坂上のベンチャー企業に入社し てきた女性。 自動おむつ試作品の開発を坂上と 共同で行う。坂上から試作品の着 用をお願いさ

人類は3種類の人間に分かれた #06

 僕は原口に聞いた。 「ところで、何で、君はこんなに 僕に親切にしてくれるんだ?」 「前にも言ったが、電脳世界で俺 がやってきた事を誰にも喋らない でくれたら、それでいいのさ。  もし、仮に君が、この世界で成 功したら、後でお返しをしてくれ たら、それでいい。 まあ。期待はしないがな」 「俺は、これで帰るよ。何かあっ たら、呼んでくれ。アレクサに話 掛ければ、すぐに俺につながる」  そういうと、原口は去って行っ た。  原口の話では、AIによって、 人々の暮らしは支配さ

21世紀へ #02

 来週には、21世紀の世界に居る のかと思いながら、代理店をあと にした。  一週間が過ぎて、いよいよ、 21世紀へ旅経つときが来た。  この世界から、タイムトラベル する場合は、タイムポートへ行く。  タイムポートはタイムマシンが 設置してある建屋で、人々はそこ から、過去へと旅立っていく。  タイムポートの建屋に入ると、 タイム通関のコーナーへ向かった。  タイム通関とは、旅行者がこの 世界から過去へ旅立つ資格がある かどうか、検査する機関である。  タイムマシ

21世紀へ #03

 とりあえず、用意してくれた、 この世界の僕の家に向かうことに した。  東横線で、神奈川県の元住吉駅 へ向かった。  元住吉駅から、歩いて5分ほど にある、アパートの一室が僕の新 しい住居だ。  ここから僕の新しい人生が始ま る。  やりたい事は決まっていた。 西暦2025年のこの時代で、西暦23 41年には存在していた、自動おむ つ装置を開発することだ。  会得した、自動おむつ装置の技 術をこの世界で再現したかった。  未来の世界では簡単に手に入っ た材料が、この

21世紀へ #04

 試用をして、わかったのだが、 想わぬ不具合が発生したのだった。 「まず、僕が先に試してみるから。 おしっこでね」  トイレに入って、着替えた。 パンツを脱いで、おむつを付けた。  27歳のいい若者が、オムツをし ている。傍から見ると、不格好に 違いない。上にズボンを履いて、 トイレを出た。  トイレのドアの前で彼女が待っ ていた。 「いま、オムツを付けているから。 これから、小の方をしてみるよ」  彼女は僕のズボンの前の膨らみ を好奇心いっぱいで凝視している。 「そん

21世紀へ #05

 数日後、不具合を修正し、バー ジョンアップしたオムツを再び、 試してみた。 「井上君! 直したぞ。今度は問 題ない。見てくれ」 「今度は大丈夫ですよね?」  彼女は、疑わしげに僕を見てい る。 「今度は大丈夫だから」  僕はトイレに入って、おむつを 付けて、そのまま、朝のおつうじ をしてみた。  今度は、大も小も、問題なかっ た。 「やったぞ! 完成だ。見てくれ」 脱いだ、オムツを彼女に見せた。 「本当だー。オムツの中はきれい ですね」 「うんうん。やっと完成し

21世紀へ #06

 ハンディーマッサージャーの防 水機能にヒントを得て、オムツに も防水機能を付けたら、どうなる かと考えたら、グッドアイデアが 浮かんだ。 「そうだ! これに防水機能を付 けて、防水機能付き水着にしたら どうかな? ねぇ、井上君」 彼女に意見を求めた。 「なんで、水着ですか?」 「いや、オムツではなくて、いっ そ、水着にしてしまった方が、 オムツのイメージより、良いし。 それに、プールの中で、おしっこ をしても、この水着なら問題ない でしょ?」 彼女は、キョトンとして

21世紀へ #07

 打ち上げは、赤ちょうちんの焼 き鳥屋で行うことになった。  その焼き鳥屋は、事務所の近所 にある焼き鳥屋で、仕事が終わっ てから時々、足を運んでいた。  玄関には、赤ちょうちんが下がっ ている。引き戸を引いて中に入る と、狭い店内は剝き出しのコンク リートの床に粗末なテーブルとイ スが並べてある。  仕事帰りの、ガテン系のおやじ が、一杯ひっかけてから帰るよう な、安酒を飲ませる店だ。  仕事が終わって、井上綾香と一 緒にアパートを出て、歩いて店の 前までやってきた。

21世紀へ #08

 彼女は、とても寂しそうな顔を していた。  ここで、僕の心の中に迷いが生 まれた。  僕はこの子が好きだ。しかしな がら、社員として雇っており、彼 女の田舎のご両親からは、「娘を よろしくお願いします」と頼まれ ている。  無責任なことは出来ない。  僕には彼女を守る責任がある。  部屋の中に入り、彼女をソファ ーに座らせた。  彼女は焦点の定まらない眼で、 上半身をゆらゆらと揺らしている。 「ちょっと待って。水を飲んで、 少し、酔いを醒ましなよ」  キッチンに行って、

21世紀へ #09

 次回は、レンタカーを借りて、 僕の運転で、ドライブに行く約束 をした。  僕のいた23世紀には自動車など という原始的な乗り物は無かった。 ゆえに、23世紀の人間は、この時 代の自動車を運転できない。  移動には、小型のUFOを利用して いた。  それに対して、電脳世界はとい うと、文化程度は、だいたい、西 暦2000年あたりで止まっている。  電脳世界で生まれ育った僕は、 車の免許を持っていたし、運転も していた。 * * *  レンタカーを借りて、元住吉か ら、

第三章 未来はこの手の中に #01

 商品の開発は終わったが、これ から、特許申請をして、売り出さ ないといけない。  そのためには、社員を増やして 事務所を、もう少し広い所に移し たかった。  株式投資型のクラウドファウン ディングに依り資金調達をするこ とにした。 SNSや、Twitter などの口コミから も火がつき、資金調達は順調だった。 少し広いオフィスへ移り、社員も30 名ほどに増えた。  画期的な商品の多くは、はじめ は、少数のオタクに広まり、それ から、一般へと、だんだんと普及 していく。ビ

未来はこの手の中に #02

 こういった社会現象にまで成っ た、我が社のアプデパンツは、売 れに売れて、生産が間に合わなかっ た。  良いことは長く続かない。  過去の時代に、未来の技術を使 用したことがばれた場合、刑法で 罰せられる。  未来の技術を使っていることが、 時間旅行管理局に知れてしまった。  時間旅行は何処でも好きな時代 に勝手に行ける訳ではなく、ある 程度、年代と場所が決まっている。  各年代には、時間旅行管理局の 取締管『通称:時取り(じとり)』 が駐在していて、その時代の時間

未来はこの手の中に #03

 原口タケシや須賀吉秀の根回し により、時間旅行管理局からの、 おとがめは無かった。  僕と井上綾香の関係が続いて、 一年が経つ。  いまや、井上綾香は僕の有能な 秘書であり、恋人だ。  よく、官能小説の題材にあるよ うな、社長と秘書のような関係で はない。  公私の区別をつけ、将来の結婚 を見据えて、真剣にお付き合いを している。  会社もいまや、資本金7億円の 中堅企業に発展し、業績も順調に 伸びている。上場まで、あと少し だった。  この頃の僕はマスコミにも顔を

未来はこの手の中に #04

 数日後、綾香が両親のことにつ いて、話があると言ってきた。  何か、嫌な予感がした。  僕の予感は的中した。  彼女の話によると、お父さんが、 僕についての雑誌の記事を読んだ らしい。  そして、私立探偵に、僕の身辺 調査を依頼したそうだ。  依頼した私立探偵社からの報告 書には、僕の生い立ちを調べた調 査員は出生から、その親族等を調 べようとしたが、どうにも判らな いと云う結果が報告されていた。  僕の生まれ故郷へ行って、周辺 の学校の卒業名簿を調べたが見当 たらな