なぜテイラーはYCに参加するのか(あるいは2回目起業のスランプについて)
はじめまして。テイラー株式会社の代表の柴田陽です。
テイラーは、エンタープライズ向けに、テイラーメイドの基幹業務システムを10倍速で開発できる開発基盤「Tailor Platform」を開発しています。
この記事の読者の多くは、テイラーのYコンビネーター参加の記事がきっかけに本記事にたどり着いて頂いたと思いますので、今回はテイラーを立ち上げる過程のストーリーのうち、Yコンビネーター(YC)への応募に至る想いを中心に書いて行こうと思います。
どんな事業なのか、なぜ、この事業をやろうと考えたのか、ということについては、後日別の記事で書かせていただきます。
残りの社会人人生をすべて賭けられるテーマを探して
Sophomore's Slump (2年生のスランプ)というスポーツ用語があります。
大物ルーキーとして1年目は活躍した選手が、様々な理由から2年目(Sophomore。2年生のこと)にスランプに陥ってしまう「あるある」を指す言葉です。
起業家にもこのような2回目起業の難しさがある、というブログエントリーを読んだのは、スマポを卒業して次の起業ネタ探しのために渡米した2016年のことでした。
この記事を要約すると
一度ほどほどに成功してしまうと「雑草魂」的な情熱を持ちづらくなる
前に起業した事業領域の方が成功しやすいのに、別の領域をやりたくなる
成功体験に縛られ、以前と環境が変わっているのにUnlearnできない
ということで、2016年当時、自分の状況に非常に重なって思えました。
この頃の起業ネタ探しの基準は「新しい(me tooでない)アイディアで、ユニコーンを目指せる領域」という基準で探しており、割とトレンドに沿ってネタを探索するやり方でした。
その結果は、様々な「良さげなアイディア」は見つかるものの、それが自分として次の挑戦に値するようなビッグテーマなのか、という疑問にとらわれ、なかなか踏ん切りがつかない状況でした。
このSophomore's Slumpの記事のアドバイスに沿って、サイドプロジェクトをやったり、他人の起業を手伝ったりしてみたり。結果的に、7年間で、おそらく7個くらいのアイディアを試し、ローンチしたものもいくつかある中で、手応えが得られるようなものはありませんでした。(この中にはFundsやわたし漢方は含まれていません。いくつかの失敗はポッドキャストでも紹介しています)
このような模索の中で、挑戦の時間軸、つまり、何年間でどのくらいの結果を求めるか、を決めることが重要ではないかと思い至りました。多数の「良さげなアイディア」を振り返ると、短期で結果が出そうなアイディアは、やはりどこか小さくまとまってしまいそうなアイディアが多いように思います。短期でわかりやすい成果を出したいという思いや、過去の成功体験から何回か打席に立つことを前提に長打ではなく安打を狙いがちな思考の癖も影響していたかもしれません。
そこで、2019年ころから、ネタ探しの基準を「残りの社会人人生すべてを賭けても良いと思えるテーマ」に設定し、検討する中で、テイラーの事業にたどり着きました。
人生をかけるからには世界に挑戦したい
残りの社会人人生を賭けてやるからには、単にユニコーンを目指すだけでなく、世界に通用するプロダクト、世界レベルの組織文化を目指す。これを目標に設定しました。
とはいえ、2015-16年の米国でのサバティカル期間の経験から、単に単身渡米して起業しようとしても、自分の強みにレバレッジがかからないということは十分わかっていたので、日本でチームを組成しながらいかに世界基準のスタートアップを作るか、という路線で計画を練りました。
折しも、コロナ禍により、ロケーションの重要性が薄まり、コミュニティーやネットワークが(相対的に)オンライン側に拡散したことで、”シリコンバレー”という概念が国際化した実感もあります。
特に、Yコンビネーターはプログラムのオンライン化により国際化を一挙に進め、いまや半分以上のスタートアップが米国外になっています。例えば、我々が参加するSummer 2022の直前のバッチ(Winter 2022)は、参加399企業のうち、51%が米国以外を本拠とするスタートアップです。
Yコンビネーターに参加すると、出資の見返りに7%相当の株式を取得されます。その7%が高いのか安いのか、という論点もありますが、日本をチームの本拠にしながら世界レベルを目指すという目標に立ち返って考えると、他のオプションに比べて世界戦へのエントリーチケット(参加料)としてはかなり割安なのではないかと考えました。
そこで、Yコンビネーターへ応募することとし、無事一回目の応募で採択されることができました。選考の様子など気になる起業家もいらっしゃると思うので、後ほどまとめたいと思います。
環境が起業家を育てる
私が好きなスタートアップ逸話のひとつに、ペイパルマフィアのストーリーがあります。Paypalの創業メンバーらが、Paypal退社後に数々の偉大なスタートアップ(YouTube, Tesla, SpaceX, LinkedIn, Yelp, Palantir, Yammer, Affirm, etc.)を生み出したという話で、「環境が起業家を育てる」という説のひとつのエピソードになっています。Paypalほど輝かしくはないにせよ、似たような話はたくさんあり、最近だとコロンビアのユニコーンRappiの卒業生が100社以上創業して中南米版ペイパルマフィアになっているという話を聞きました。日本でも元○○出身の起業家というくくりで思い浮かぶ企業や組織がいくつかあると思います。
きちんと分析、証明したわけではありませんが、この「自分の身を置く環境の影響」が会社のパフォーマンスに与える影響については過小評価されていると考えています。YCやスタンフォードや、○○マフィアのスタートアップのパフォーマンスが有意に高いのは、人脈やシグナリング、セレクションバイアスだけでなく、周囲からの影響(ロールモデルやピアープレッシャーもその一部でしょう)が創業者のキャラクター・考え方として内部化され、その創業者のキャラクターや考え方が、会社の文化を形作る核になることで、実際に成功しやすいスタートアップが作られるのだと思います。
私自身も、Yコンビネーターのような非常に競争的な、ある意味自分がかなわないような起業家たちが凝集している、圧力鍋のような状態に身を置くことで、YCカルチャーの良い面を吸収し、それをテイラーの組織文化に反映させていきたいと思います。
YコンビネーターのOnboarding期間中の印象
Yコンビネーターのプログラムは、正式には6月からなのですが、準備期間中からすでに膨大な知識・経験の蓄積とネットワークにアクセスできていることを実感しています。
例えば、YCには、YC自社製のBookfaceというプラットフォームがあり、これはOnboardingツールとWikipediaとQuora(Q&Aサイト)とFacebookを合わせたようなドキュメントで、あらゆるスタートアップTipsが、最新にアップデートされています。YCは、スタートアップへのアドバイスという非常に個別性の高い付加価値を、毎年数百社というスケールで実現していますが(それもおそらく50名以下で)、その仕組みの一端を垣間見た気がして、このスケーラビリティの作りかただけでも非常に勉強になるなと感じています。
また、各スタートアップはジャンル別にGroupに分けられ、各Groupに担当パートナーがつくのですが、パートナーも例外なく全員実績のある元起業家です。テイラーの主担当パートナーも、Search APIという当社と同じBaaSプロダクト領域の共同創業者で、ARR100億円、累計調達金額300億円という、日本には数人しかいないような実績の持ち主で、そういった人々がメンターになってくれるのも得難いネットワークだと思います。
Yコンビネーターがどんな感じなのか、については、日本語の情報が少ないこともあり、PodcastとTwitterを中心に継続的に発信していきたいと思います。これを参考に、ぜひもっと多くの日本の起業家にも参加してほしいと思っています。
さいごに(採用の宣伝)
テイラーは、エンタープライズ向けに、テイラーメイドの基幹業務システムを10倍速で開発できる開発基盤「Tailor Platform」を開発しており、YC参加を契機に、グローバルな製品やOSSとの連携を強めて世界に通用するプロダクトを構築する過程にあります。
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