小説『三分間』第九話

 ベッドから起き上がって窓の外を見てみると、雨が降っているようだった。それもかなり激しく。嵐が来たようだ。
「どうも嵐が来たようなんだ。こんなことはしばらくなかったんだけどもね、嵐が来ると、鳥たちが混乱して街へ向かってくるんだ。とにかく、早く避難しないといけない」
 ロングコートは慌てた様子で、コートを羽織りながらそう言っていた。
「さあ、君も着替えて、外に避難しよう。俺の、このコートを着るといい」
 そう言って彼はコートを手渡してきた。コートはずっしりと重たかった。彼はこんなに重たいものをいつも着ているのか、寝ぼけながらそんなことを思った。
 上の階に戻ると、かなり激しい雨音が聞こえた。かなり大きな嵐のようだ。雷も、鳴っている。薄っすらとだが、鳥の大群がこちらに向かってくるのも見えた。ロングコートが慌てふためく理由がわかった。かなりの量の鳥の群れが、こちらに押し寄せてきている。そのあまりの多さに、僕もぞっとしてしまった。早く、ここから逃げないといけない。
「さあ、こっちへ来るんだ。この窓から飛び降りる。なあに、心配ないさ。俺はいつもそうしているんだ。怪我はしたことがない。今日はちょっと激しい雨だから、どうなるかはわからないけどね」
 ロングコートは窓際に足を掛け、にやりとしながらそう言った。かなり高い塔なのに、大丈夫なのだろうか。
「じゃあ俺からまず行くよ。それに続くといい」
 そう言うと彼は窓から飛び降りた。彼のコートはたなびいていて、心なしかふわふわと降りていくように見えた。彼は、地面に着地した。なんともなかったようだ。
「おーい! 君も早く降りてくるんだ!」
 彼は両手を振りながら叫んできた。きっと大丈夫だろう、彼を信頼し、窓から飛び降りようとした瞬間に、黒い大きな円のようなものが下に現れた。それが見えた瞬間にはもう、僕は飛び降りてしまっていた。黒い円の中に、体が吸い込まれてゆく。
 長い時間、真っ黒な空間の中を落ちていった。ロングコートは、もちろんもう見えなくなっていた。途中、体の向きが変わってしまい、頭から僕は落ちていった。このまま地面に激突してしまうのだろうか。上を見ると、紫色の世界はもう閉じていた。真っ直ぐ落ちていくのだが、ぐるぐる回転しているような感覚を、感じた。
 気がつくと、僕は真っ黒な空間に倒れ込んでいた。どうやら、地面まで落ちてきたらしい。周りを見渡すと何もなかったが、遠くの方に、電灯のような、白い灯りが見えた。僕は、その方向に向かって歩いていってみることにした。

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