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天動説における周転円とアドホックな仮説

行動経済学、実験経済学の方法論を論じる際に、ケプラーの地動説(楕円軌道説 1609年)とプトレマイオス(Ptolemy 西暦83年-168年の古代の人です)の天動説(周転円説---中世のローマ教会の公式見解であって、1992年にローマ教皇ヨハネ・パウロ2世によって正式に撤回されました)が対比されることがあります(たとえば著名なゲーム理論家ケン・ビンモアの実験経済学の方法論に関する論考のp.89 Experimental economics: Where next? 2010 JEBO)。しかし、高校で物理を履修しておらず、また大学以降でも物理学の講義を履修していない学生さんには(本来、10代後半程度の水準の科学的思考力で理解できることであるにも関わらず、知識の欠如のせいで)その内容を理解するのが難しいようです。
 そこで簡潔に、古代天動説の周転円と現代の地動説(楕円軌道)を以下に対比しておきます。

周転円に基づいた天動説。円は完全な図形であり、天は神の世界であるから完全な図形である円軌道を描くと仮定されていました



一旦、完全な図形は円だから天体は円運動するという仮説を捨てると、こんどは、「なぜゆがんだ円である楕円のかたちをした軌道を、天体は描いて運動するのか?」という「なぜ」という問いが思い浮かびます。これに関しては、ケプラーの時代の数学の水準では答えをえることができず、ケプラー自身も、太陽から地球に磁力みたいな遠隔力がはたらけば説明できるかもしれない、と憶測するだけで亡くなりました。そのケプラーの死後、アイザック・ニュートン(ほぼ江戸時代の時期の人)が微積分学を創始して運動方程式と、距離の2乗に反比例する遠隔力(万有引力)を仮定すると楕円軌道の運動が数学的に導出できることを理解できるようにしました。つまり、「なぜ楕円軌道なのか?」の答えは「太陽から逆2乗の遠隔力を受けているから」だったのです。それでは、なぜそんな逆2乗則が働くのか?という問いが浮かんでくるでしょう。その答えを得るには、19世紀にリーマン幾何学が創出された後、1916年にアインシュタインが一般相対性理論を思いつくまで、ニュートンからさらに200年以上の数学の進歩と物理学の発展が必要だったのです。

1609 ケプラー楕円軌道説
1687 ニュートンの「プリンキピア」
1916 アインシュタイン一般相対性理論
2015 一般相対性理論の予言の重力波検出



下記はBinmore and Shaked 2010 JEBO より。
「プトレマイオスの周転円説は、もし十分な個数の周転円たちを仮定すれば、ケプラーの楕円軌道よりも惑星たちの運動をよく説明できてしまいました。したがってこの例からわかることは、予測される新しいデータにフィットさせるパラメータたちが浮動したままになっている場合は、大変注意深くならなければいけない、ということです。」

以下に、ニュートンの運動方程式と、万有引力の法則を組み合わせると、ケプラーが述べたように、地球などの惑星が楕円軌道を描くことの証明ができる様子を示しておきます。



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