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仕組み債の”債券部分”についての考察

仕組み債が問題視されている。金融庁からも指摘が入り、新聞でもよく議論されているようだ。
わたしの以前の記事(「仕組み債」の手数料が単純でない理由)に書いた通り、仕組み債は債券とデリバティブを組み合わせた金融商品だ。そして、個人に売られている仕組み債の中では、デリバティブの取引条件が売り手側に相当有利(投資家側に相当不利)な条件であることが多かろうことを述べた。

ここでは、仕組み債の構成要素のうち債券部分について簡単に議論しようと思う。(尚わたしは最近売られている仕組み債にどのような債券が使われているかを調べてはいないので、自分の知識からの想像に基づく意見であることを注意されたい。)

仕組み債に使われる債券の発行体は、債券としてのリスク(クレジットリスク)のかなり少ないものと、リスクがそこそこ高いものとに分かれると思う。仕組み債は外資系や大手証券会社が組成することが多いが、組成する彼らとは別の、クレジットリスクの低い国際金融機関などが発行する債券を用いるケースが前者、組成する証券会社自身(関連会社)が発行する債券を用いるケースが後者である。
何れの場合も、デリバティブの条件同様、個人に売られる仕組み債の、債券の発行条件(つまり利回り)は、組成する証券会社にとって有利(投資家にとって不利)なことが多いと言ってよいと思う。(少なくとも私が組成側だった数年前はそうだった。)

例えば、組成する証券会社が市場で社債を発行する場合、仮に年率4%の利回りを投資家に約束するのが普通の状況であるとしよう。この証券会社が組成し、個人に販売する仕組み債において、同じ証券会社が発行する債券であるのに、年率3%の利回りしか投資家に渡さないとしたらどうだろうか?この証券会社は年間1%分得することがお分かりいただけるだろう。この儲けは手数料(fee)というより、マージン(margin)と表現するが、それも組成側の証券会社の儲けなのである。
このように仕組み債による儲けは、手数料よりも、デリバティブと債券を割高で買わせることによるマージンの部分が大きく、外から十分に解明、理解することは簡単ではない。

債券/クレジット投資そのものは、個人の資産運用に有効な手段となりえる。しかし、仕組み債における債券部分の問題は、セットで売られるデリバティブのことは度外視したとしても、見えない取引価格が割高なことが多かろう点に加え、クレジット投資に必要な分散投資がなされない点にもあると思う。仕組み債を買う投資家は、はたしてその仕組み債の発行体のクレジットリスクと、それを取る為に得る利回りの妥当性を十分に理解しているのだろうか?昨今の問題提起をみるに、一般的な答えは、否ということであろう。