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金利の無い世界で忘れられた、投資の「元本保全」

投資や資産運用をする目的は、お金を増やすことであろう。もちろん投資にはリスクはつきものである。しかしなるべく投資した元手をなくしたくない、つまり元本を保全したいというのは至極自然な要求だ。
例えばヨーロッパの富裕層は代々資産を守るということに重点を置いており、資産運用においては元本保全を最重視するという。もちろんインフレに負けない為に銀行預金や国債だけ買うというわけにいかず、元本を保全しながら十分なリターンを得る「絶対収益(Absolute Return)」型投資への要求からヘッジファンドやプライベートエクイティなどの「オルタナティブ投資」が発展した。

しかし金利の無い世界が続いた日本では、この元本保全という投資の原点的な発想が今や忘れ去られたか、もしくは無視されてしまっているようだ。その背景は三つあると思う。

①金利の無い世界では、元本を保全しながら儲ける投資が難しい
金利があれば、銀行預金や国債の満期保有など元本の毀損リスクがほぼ無い投資でも金利が得られるが、金利が無い世界ではリターンがない。日本でも以前は銀行に定期預金をしておけば満期時に十分なリターンが得られる時代があったが、現役世代はその恩恵を受けたことがない。
その結果、リターンを得るにはリスクを負うのは当たり前で、投資において元本保全などは不可能と考えるようになったのであろう。

②金利の無い世界では、金余りによりあらゆる投資が儲かりやすい
世の中の金利を決めるのは中央銀行だ。(正確には最も基本となる政策金利を決めるのは中央銀行で、それに世の中のあらゆる金利が影響を受ける。)金利が無いのは、中央銀行が景気を刺激したい為、もしくはデフレを阻止したい為に金利を無くしているわけだ。その結果市中にはお金があふれ、あらゆる資産の価値が上がりやすい。つまり金利の無い世界では、株や不動産を含め本来リスクの高い投資でも儲かりやすく、元本保全という考えは忘れられてしまうのであろう。

③「長期投資」を錦の御旗に短期的な元本保全が軽視されている
上記のような環境の中、個人の資産運用にも超長期の投資を前提にした「積立投資」や「現代ポートフォリオ理論」による分散投資という考え方が浸透しているようだ。後者は現代といっても70年前に出来上がった理論だが、生命保険や年金など数十年間という超長期で運用する投資家が上場株など値動きの激しいアセットも投資対象とする上でベースとしている分散投資の考え方で、ある程度短期的なリスクには目をつぶっている。それでも機関投資家はリスクを極力抑える為にもオルタナティブ投資にもかなり配分している(個人には難しい)ことは知っておくべきだし、そもそも個人投資の時間軸に合うかどうかという問題もある。

さて日本では政府の働きかけもあり資産運用への関心がかつてないほど高まっているが、その考え方や方法論に、以上のような背景から元本保全という原点が抜け落ちてしまっているのではないか。日本の外の世界では金利は急激に戻っており、株式や不動産などリスク資産に対する警戒感が強まっている。その中で、日本人が相変わらず金利の無い世界で醸成された考え方で、金利の戻った世界で投資をし続けて大丈夫だろうか?金利のある世界にはそれなりの投資方法がある。外貨建てて投資できるのであれば、金利が十分に存在することに着目し、その恩恵を受けられるような投資の仕方を考慮するのが良いだろう。対円での為替リスクは取ることになるが、元本の保全を目指しながらリターンを上げる投資も可能なのだ。