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アメリカのVC就活事情

今回は、アメリカでのVC就活の経験について、振り返って書いてみようと思います。自分の場合は最終的に就職しませんでしたが、元々は現地VC就職するつもりだったこともあり、MBA中2018年後半から19年前半にかけてアメリカのヘルスケア系VC/CVCを対象に就活を行ったのでその経験を共有します。

VC就職の環境・戦略


NVCAによると2018年時点でアメリカ国内で1000超のVCがアクティブに活動しており、NVCAに登録されていない小さなVCも含めたPitchbookの数字では5000社近いVC・投資家集団がいるようです。またVenture Capitalist志望者も多様で、起業家・企業出身のミドルキャリア・Advanced degree保有者など多様なバックグラウンドからVCを目指します。ポジション争いも熾烈なため、どんなVCを狙うかの戦略が重要で、投資領域・戦略、自分の強み・他候補者との差別化をよく分析し、フィットするターゲットを絞り込んでいきます。例えばバイオテックVCでも、がん創薬のみにフォーカスしたVCもあれば、創薬・農業・食など幅広くバイオ投資をするVCもあります。またヘルスケアIT領域でも、病院・薬局等のProvider/retail向けのITフォーカスのVCもあれば、ゲノム情報といったバイオITに注力したVCもあり、一口にヘルスケアVCといっても多様なモデルがあるため、VCを分析し、フィット・戦略を練るフェーズが必要になります。また人づての情報・紹介が重要なので、VCコミュニティの中/周辺におり、情報を教えてもらったり紹介をお願いできる、いわばサポーターの存在が重要になります。

Step1 -- ネットワーク・情報集め


ターゲットを絞ったら、情報集めに移ります。VCの求人情報は基本的にClosedなので企業ウェブサイトに載りません。したがって、主な情報源は人づてです。サポーターからの情報の他、ヘッドハンターの情報が役に立つことも多々ありますし、企業・出身校のアラムナイサイトでClosedに募集を出しているケースもあります(自分の場合マッキンゼーのアラムナイサイトには結構お世話になりました)。ただし情報が古く既にポジションが埋まっている場合や、既に有力候補者と面接が進んでいること場合、新しい募集を受け付けていないことがよくあります。VC業界の人から「どこどこが若手を募集してる」と一次情報(または二次情報)として教えてもらうのが信頼できる情報ソースになります。結局聞いてみないとポジションが開いているか分からないため、ポジション探しに時間がかかりますが、根気よく探すのが正攻法かと思います。この時点で10かそれくらいみつかればラッキーといったところです。

Step2 -- 準備・紹介・仕込み


ターゲットVCのポジョションを見つけたら接触を図ります。Cold emailへの返答率は極めて低いので、基本は知り合いにWarm introductionをお願いします。ポジションについて人から聞いた場合にはその人に紹介を頼むことが殆どで、ウェブ情報等で見つけた場合には、Linkedinなどで紹介を頼める知り合いを探したり、自分のサポーターに紹介できないか聞きます。知り合いの中で紹介を頼める人がいない場合には、やや遠回りですが、ターゲットVCの主要投資先のスタートアップに知り合いを作り、その人から紹介してもらうこともあります。
首尾よくターゲットVCを紹介してもらうと、コミュニケーションが始まります。まだ募集している場合、採用プロセスに入り、まずResumeを送ってくれと言われます。紹介にも強い紹介・弱い紹介があり、強い紹介であるほどResume時点で落とされることが少なくなりますが、弱い紹介であればResumeで落とされることも多々あります。
Resumeが通ると一度短いコールがセットされます。コールがセットされたあたりで、面接に向けそのVCについて深く(過去の投資案件、その中で自分が面白いと思う案件はどれか、投資メンバーなど)を調べていきます。
また、準備段階で最重要なのはInvestment Thesisです。Investment Thesisとは、VC投資ピッチのことで、イノベーション・技術のトレンド・市場のニーズ・競争環境・新規のスタートアップ投資機会等を分析し、面白いと思う投資領域・案件についてまとめたピッチ・意見のことです。就活だけではなくVC一般でInvestment Thesisは基本ツールであり、Thesisを構築・アップデートし、VC同士でも意見交換をしたりします。面接においても、Investment Thesisを披露、議論するのが最重要部分であり、面接準備も殆どはThesis作りになります。ターゲットのVCの投資領域に応じたThesisを作り込み、マクロなマーケット視点から、ミクロな技術視点・投資したい具体スタートアップまで話せるように準備を進めます。

Step3 -- 面接


最初の面接は殆どの場合電話会議になります。最初から対面でじっくり時間をとってもらえることは少なく、時間枠としても30分程度で初期スクリーニングをされます。この段階を通過すると、少し長めに1時間程度の枠で、面接を行います。コールの場合も対面の場合もありますが、最初のスクリーニングよりも深く質問をされ、キャリア・目標について受け答えをする他、自分がそのVCに興味を持った理由、投資先への興味などを話します。またこの段階でInvestment Thesisが議論の中心になり、Thesisについて面接相手が深堀りをして質問をしてきます。鋭い/深い質問が飛んでくるのでここでのDefenseが面接合否の鍵を握ると同時に、相手の質問内容からは逆に相手がどの程度その分野に詳しいか理解する機会にもなります。
フィットがあると次のラウンドに進むことができ、順次別のメンバーとも面談をしていきますが、内容としては同一の面接を繰り返します。
時折食事やインフォーマルな面接がセットされることもあります。自分の場合、とあるVCのパートナーの自宅に呼ばれシャンパンを飲みながら、Investment Thesisを議論するという回もありました(ちなみに家はウェブニュースに取り上げられる程の大豪邸で、オフィス面接以上に緊張しました)。
このように様々なシーン・相手との面接を繰り返し、フィットがあると思われると、だんだんと面接・選定の雰囲気から入社意思を確認する雰囲気に変わっていき最終的にオファーが出ます。

総括

上記のようなプロセスを経てなんとかオファーをもらうことができましたが、その過程ではネットワーク・情報集めの過程で述べ100人以上と話し、見つけた30以上のターゲットVCのポジションのうち、面接までいったのは7社程度でした。面接すら受けられないことも多いため、最初からフィットが高そうなVCを見つけ、自分がどう貢献できるかをアピールしながらアプローチしますが、それでも最初の面接までも辿り着かないことが多いのが実際でした。自分の場合はコンサルタントとして働いていたVCのパートナーやメンバーが非常に親身になってくれたおかげで、なんとか面接・オファーまで進むことができました。

雑感


高密度かつ成熟したVCネットワークの中に入っていく上では、サポーターとなる存在が極めて重要で、VCエコシステムの中/近くにいるサポーターにエコシステム内部に引き込んでもらうことが必要になります。VC就職にはネットワークが必要なのは間違いないと思いますが、必要なのは、広く浅い人脈ではなく、限られた人数とであってもいいので、新しい人脈形成をサポートしてもらえる信頼関係だという印象が強いです。VC投資家たちにVCに就職するコツを聞くと、いきなりVC就職を目指すのではなく、VCの周辺から始めてVCと信頼関係を作れと言われることがありますが、これはまさにサポーターになる人を作ることから始めよ、ということだと思います。またVCはポジションの数が非常に少なく、タイミング・運よくポジションに巡り会えるかも結果を左右する要素だと思います。またVCはどこも小組織であり採用はパートナー個々人の一存なことも多いが故、良くも悪くもプロセスや形式が標準化されておらず、VCによってやり方が違うことも多い印象です。できる限りの準備は怠らずも、あとは予想外を楽しむのが丁度いいくらいかなと思っています。

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