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空を自由に飛べたなら

こうして並んで座っていると
なんだか友達同士みたいだね
お互いのことをまるで知らないのに
君は静かに微笑んで
首を縦に振った

もっと自由に物事を考える頭があったなら
今頃、幸福を手にしていたんだろうか
現在が不幸なわけじゃない
でも、足りないものがあるんだ
取りこぼしてきたものがあるんだ
それが何かはわからないけれど

暗雲立ち込める空を見上げながら
言葉を発しない君と
波の高い海を前にして
飛ぶ練習をしている

空を自由に飛べたなら
夢に見る、落ちていく感覚を味わうこともなく
暮らせるだろうか

空を自由に飛べたなら
足元の石に躓くことなく
血を流すこともないのだろうか

空を自由に飛べたなら
落としてきた煌びやかな宝物に
執着することもなかったのだろうか

空を自由に飛べたなら
大切な人を
ちゃんと守ることができるのだろうか

残った缶珈琲を君に渡して
テトラポッドの上から
飛び降りる練習をした
この重い身体を空に浮かすには
まだ時間が足りないみたいだけれど

大切な事には時間がかかる
そんなことはわかっている
友達ではない君は僕の袖を引っ張って
飛ぶのを阻止しようとしているみたいだった

そうだよな
別に今日じゃなくてもいいんだ
そう言い訳をして
友達の友達の友達みたいな君と
再び座り込んで空を見ている

ほら、
拍手の音みたいに
雨が降ってきた

僕は濡れる
君はそのままの姿で
ただ座っている
濡れることもなく

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