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カラスが鳴くから

隣り合うことの許されない僕等は
どうしたら番になれることばかりを考えていて
その実、相手の気持ちを無視していることにも
気がつかない

温かな日差しが目立つようになった初夏に
鬱々とした男が独り街をうろついていくさまは
滑稽に映るか
それとも危険をはらんでいるように見えるのか
それは人々の心のみ知る所だ

今日もカラスが歌っている
不吉の貴公子はいつも電信柱の上にいて
僕等を憂鬱な気分へと誘う

心が心を越える時僕等はいつでも空を飛べる
その際、人々にはどう見えているのだろうか
カラスに見えていないといい
どうか美しい鳥であってほしい

美しいの定義が曖昧なまま生きている限り
漆黒からは抜け出せないことを知っていて
それなのに楽園の存在を否定しきれないのは
強く望む力が、まだ残されているからだ

がんばれ、がんばれ、がんばれ
思ってもいない激励が傍から飛んでくる
がんばる、がんばる、がんばる
思ってもいない事実を肯定するように頷く

隣にいない君の姿を妄想しながら
今日もベランダで煙草を吹かす
カラスが鳴くから帰ろ
いつだったか
そんな時間に帰宅したことも記憶にないくらい
僕等は暗闇に好かれてしまっている

今夜は新月が綺麗だ
綺麗だと思う心がまだ残っている内は
正気を保てているだろうという勘違いもまた
僕等の街には蔓延っている

明日がどうなるか定かではないのに
悲しくなるのは何故なんだろう

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