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ロストエイト

嘘だらけの畔を歩く
そこに芽吹こうとしていた息吹を
否定するようにして
ひたすら潰してゆく

今日の空は満点だったよ
君がそう言うので
僕は夏が嫌いになった
空が満天模様なのに
気持ちは全く晴れなくて
光りだけが、ただ、ただ、強く降り注いでいる
肩で息をしながら
向かった先は海
随分と遠くに来てしまったと思う時
その傍らにはいつも海があった

最愛の人たちとの別れを選び
掴みたかった物ってなんだろうと
思案してみると
僕の欲しかったものは
ちっぽけな優越感でしかなかった
でも、もう戻ることはできない
正確には
新しい居場所を手に入れて
動けずにいる

それを煩わしいなんて思ってはいない
春の陽気を飛び越えて
嫌いな夏へと歩を進める
騒がしい季節の喧騒の中で
独り、8月が滅んでしまえば良いのにと
紙飛行機を飛ばした、願いを込めて

君に僕の手紙が届く頃には
季節は様変わりしているだろう
冬と夏の境界線で会うことが
自分達の使命であるかのように思っていた20代
春と秋の境界線で愛を語ることが正しいと
気付いてしまった30代

これから変わりゆく世界の中で
自身の価値観が揺らぐこともあるだろう
誰々が誰を好きかなんて会話で盛り上がっていた10代の頃
思い出せる季節はいつでも快晴であった
夏なんて儚い物を信じながら生きていた
汗ばんだタンクトップを脱いで
水分を絞り出していた

夏が嫌いだと言いながらも
結局は入道雲の中に住んでいる天使たちの姿を想像してしまう
人は独りでは弱い
あまりにも脆い

そんなことに気づくまでに
随分時間が掛かった

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