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顛末

一本、また一本と
指を折ってゆく
痛いなんて軽々しく口にはできない程の激痛だ

人が終わりを迎える時って
どういう状況なんだろうね
僕はなんとなく天の国があり
そこには仲の良かった家族や友人の姿があり
生前に最も執着していたことの
延長線上に終わりがあると思っている
都合の良い考え方だと笑われたこともあるが
終末が幸福でなければ、今まで耐えてきた
あらゆる顛末に納得がいかない

花を踏みながら歩いてゆく
名も知らぬ花を
花々はクシャっと、音をたてて
僕の指が折れた時と同じ音をたてて
ただのゴミになった
息をしている者のみが命だと言わんばかりに
終わりがあることを崇拝しながら
魔窟の中で己の支配を終えることを願っている

己の精神にのみ存在する罪悪が
許されないと思った人間から
心を失ってゆく
人間が人間らしく生きる為には
息をするのを忘れる程の
夜空に身を投げ出した時代が必要だ
花が降る季節はとうに終わりを迎えたが
それでも空には星が散っている
なぜ、なぜ涙が流れるのだろうか
全ての星座が優しく瞬いている夜なのに

川沿いのベンチに腰を下ろし
折れた指を摩りながら
もう、手遊びは出来ないことを知る
今頃になって気がついても遅いのに

もし自分に分身がいるのなら
これから起こり得る嫌なことは全て君に任せるよ
その間に、僕は眠り続けているからさ

星座と星座との間に隠された陰謀を紐解いて
真実を導こうとする学者たちは
人間と人間の間にある確執を失念していた
呼ばれればすぐにでも行くよ
ただ、今はまだそのタイミングでは無いみたいだ
これから起きるべき辛い出来事は
僕ではない僕が経験するのだから
何も怖いことは無い
 
もう、人を抱きしめられないことも
もう、約束を結ぶことができないことも
全てが悪い夢のようで
眠っている間だけでも、美しい光景を見ようと
そう思うにつれて魔窟はより暗黒を増す
 
もし、もし自分に分身がいるのなら
これから起こり得る幸福は全て君に任せるよ
その間に、僕は眠り続けているからさ
 
深い深い眠りについて
痛みを忘れた頃に乖離した肉体と一つになる
それはつまり
暗闇に産み落とされたあの夜と酷似した
己との再会であるべきだ

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