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虹とビーカー

言葉を話せるようになった
ビーカーに毎日言葉を封じ込めた
ビーカーが千個になった暁には
閉じ込めていた言葉たちを解放しようと決めていた
それが私の最後の仕事だと言わんばかりに

固く閉じられた精神の
上空から蛇腹に折られた七色の折り紙が
私達に足場を作ってくれる
足場を昇ってゆけば
楽園に行けると信じた人々が
我よ我よと押し合いながら昇ってゆく
途中、落ちた人も何人か見たが
彼等は無事に着水できたのだろうかと
黙視を決め込んだ私が
要らぬ心配をしている

ビーカーから飛び出すようにして
言葉が聖戦を生む
正しいことを正しいと言えるような世の中ならば
争いは起こらない筈なのに
何故人々は自ら戦地へと向かうんだろう
押し合いへし合い
顔も知らない隣人を落としながら
先頭を走るあいつの姿が
もし、救世主に見えるのならば
やはり世の中は狂っている

それは階段ではなくてただの自然現象ですよと
教えてあげても彼等は
悪魔の言葉に耳を貸すなと、楽園を目指すだろう
虹の両端を蝶々結びにしてしまえば
争いはこの世の中からなくなるのだろうか
それとも、
溜め込んだ苦渋のビーカーが破裂して
奈落の門を開けてしまう方が先か
なんにせよ、きっと世の中から争いは無くならない

神様気取りの隣人に
唾を吐きかけるようにして
私も虹の最後尾に並んだ
争いに巻き込まれないようにゆっくりと歩を進めると
沢山の言葉が弾けて落ちるさまを目撃することとなった

私の溜め込んだ不満より
沢山の汚らしい言葉が
海に向かってゆく

ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん
落ちる音は折角可愛いのに
その彼等の様相は
まるで鬼のようだ

弾けて混ざれ
混ざって溶けろ
溶けたら溶けたで
折角の海が赤く染まってしまうだろうから

私はそれを勿体ないと思う

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