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ビブリオテーク

君のことなんて嫌いだよ
そう言えるくらいには、君のことが気になっている
嘘だよ、本当は大好きさ
そう言えるくらいには、君のことが気になっている

毎朝、同じバスストップで隣に座って本を読んでいる
読み終わった本を交換して、感想を言い合う
君の笑顔が見たいから
わざとおどけたことを言って
阿呆を演出してみせる
そんな僕のことを
可愛いと言って君が笑った

嫌いっていうのは好きの反対ではなく
愛の反対は無関心だと、昔、君に借りた本で読んだことがある
無関心っていうのは
例えば誰かが生きていても、明日死んでしまっても
いなかったのと同じように生活できるってことだよ

今日は今年一番の冷え込みらしいよ
へぇ、そうなんだ
そう言いながら君は読んでいた本を膝に置いて
僕の顔を覗き込んだ
温かいらしいよ「人の唇って」
悪戯っぽく笑う君
自分の顔は見えないけれど、きっと真っ赤に染まっている
そんな僕のことを君はまた
可愛いと言って笑った

可愛いっていうのはきっと誉め言葉じゃないけど
言われるたびに身体が熱を持っているのがわかった
人の唇の温度が気になってしまって
その日は読書どころではなかった

君の知識は図書館みたいだね
僕にとっては最高の誉め言葉だ
そんな言葉を
本を読みながら「ふーん」と流していた君
大事にとっておいた台詞っていうのは
案外届かないものだねってその時に学んだから
あまり、格好の良い言葉は控えるようにしようと思った
君の可愛いは、いつでも僕に届いてしまうのに不思議だね

今読んでいる本を読み終えたら
君はまた僕の顔を覗き込んで
悪戯に微笑むんだろう

そんな毎日が
大嫌いだから
明日も君が隣にいるといい

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