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ツナ缶

僕が僕であるために必要な事
それがこの世界には多すぎて
時々途方もない夢を見ているような気分になる
真っ新だった頃のことを思い出しながら
赤ん坊のように泣いている自分を
空から見下ろしている自分がいて
あやそうにも
手が届かないのが現状だ

子供が嫌なことがあると
お腹が痛いと訴えるように
僕も泣くことしかできないから
情けないなって思うんだ

ベランダを黒猫が通過した
いったいどうやってこの敷地まで入ってくるのだろう
煙草を吹かしていると物欲しそうな顔で
にゃーと鳴く
それが僕に対する一礼でないとは言い切れないが
きっと君もお腹が空いているんだねと
そう言って
ツナ缶をあげた

世界は自分が想っている以上に残酷で
時々途方もない夢を見ているような気分になる
赤色にセルリアンブルーを足したところで
いくら混ぜても綺麗な青にならないことを嘆いている僕は
周囲の目に、どうやって映っているのだろう

空は澄み渡り、川のせせらぎが聴こえる
それだけで幸せを手にしたと言い切れない自分が
最高に可哀そうな人間だと
自覚しながら
それならもっと堕としてあげると言わんばかりに
空は雨を降らせた

幸せを手にするために人々は今日を生きている
僕もその輪にまざって
隣の人の手を握ると
温かくて動揺してしまうだろう
独りが良い時は独りで良い

それでも都合の良い時だけ
繋がりを求めてしまうのは
我儘なんだろうか

空いたツナ缶が転がっている

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