見出し画像

涼暮月夜

ねえ。君の考えていることがわかるよ
また一歩終わりまで近づいていることを喜んでいるんだね
ねえ。僕の考えていることがわかるかな
実はね、毎日が始まることが零になる感覚があるんだよ
昨日の僕はもう、僕から離れた生命体で
一秒前ですら、頁が描き替えられた物語であるような気がしてる

雨を呼ぶ風たちが頬を撫でて
前に進むたびに勇気が湧いてくる
でもそんなのは嘘っぱちなんだ
だって一秒前の僕はもういないんだから
新たに湧いてきた勇気も本来は零であって
勘違いの範疇を出ないのに
何故だか、君の声が聴こえてくる気がするんだ
一秒前より、更に
終わりに近づいたことをお祝いしよう

今年は早い時期から蝉が鳴いているね
鬱陶しいったらありゃしない
僕の限られた聴覚を遮ってくれるなと
人差し指で両耳を塞いだ
そうすると体内の音が聴こえてきて
轟々と命が燃えているのを痛感する
悲しくなんかないのに涙が出てくるみたいに
怒りなんて無いのに拳を握りしめるみたいにして
虚構の温かさを感じているこの身体が
朽ちていく日を、僕も待ちわびている

快感らしいよ
それが本当か嘘かなんてわからないけれど
最終的に行きつく場所の事なんて知らないけれど
夢で見た楽園へと繋がっているんだよと
君に適当な物語を話しては
今日の頁を閉じる

最適解のないこの世界での
救いはどこにあるのかを標した栞を
無くしてしまった涼暮月夜のこの空の下
鼓動を聴き返すみたいにして
君の胸に耳を当てた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?