見出し画像

日本の内部留保:企業利益と賃金分配のバランスを考える

近年、「内部留保」という言葉が度々話題になっています。2022年の7月-9月に発表された法人統計によると、内部留保は530兆円に達しており、増加傾向にあることが示されています。一部では、「内部留保を溜め込んでいるから、日本企業は賃金に分配すべきだ」という主張が聞かれますが、この記事では内部留保とは何かを定義し、国際比較を踏まえて企業の賃金分配について考察します。

内部留保とは、利益余剰金のことを指し、当期純利益から株主への配当を差し引いた後の金額を意味します。つまり、内部留保とは企業の自己資本のことを指すのです。

内部留保率の計算式は、「内部留保 ÷ 当期純利益」で求めることができます。内部留保にならない部分は配当金として分配されるので、内部留保率が高いということは、配当金が低く抑えられていると解釈することはできます。更にいうと、内部留保の絶対量が増加したというのは、「企業が儲かっている」ということの裏付けでもあるのです。

内部留保が何に使用されているかというと、現金や有価証券のような換金しやすいもので保有されることもありますが、設備投資に回されることもあります。しかし、設備投資に回された内部留保は、固定資産として換金することが難しいため、直ちに給与という形で従業員に還元することは困難です。

このような様々な要因を考慮すると、「内部留保があるならば給与として還元すべきだ」という主張は、一概には正しいとは言えないでしょう。

賃金の労働分配率を見てみると

賃金分配に関する別の視点として、労働分配率という指標があります。労働分配率とは、「企業が生み出した付加価値が、人件費としてどれだけ分配されたのか」を示す指標です。

労働分配率の算出方法は以下の通りです。
労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値
付加価値 = 人件費 + 支払利息等 + 動産・不動産賃借料 + 租税公課 + 営業純益(これは財務省の算出方法に基づいています)。

コロナ前の2019年の日本の労働分配率は69.9%で、60%台後半で推移しています。国際比較をすると、日本の労働分配率は決して低くなく、2019年のアメリカは67.3%、イギリス66.9%、ドイツが71.1%、韓国63.6%となっています。

このデータからわかることは、時々「日本企業は賃金が還元されておらず、内部留保に回されている」という主張がされるものの、労働分配率の観点から見ると、日本の企業は他の諸外国と同水準並みに賃金を還元していると言えるでしょう。

では、なぜ日本の賃金が諸外国に比べて低いのでしょうか。これは、結局のところ、人件費の分配が付加価値の中から行われているためです。つまり、絶対的な賃金上昇のためには、企業の付加価値を高めることが必要です。そのためには、内部留保を金融資産として保有するのではなく、設備投資やイノベーションによって付加価値を高めていくことが重要となります。

このように、内部留保の問題は複雑で、単純な給与還元の議論だけではカバーできない多面的な要素が含まれています。企業の資産運用、投資戦略、そして国の経済政策も含め、より広い視野で考える必要があります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?