見出し画像

【大人の読書感想文】 「戦争マラリア(withPlanet)」を読んで

割引あり

皆さんこんにちは。
人道支援家のTaichirosatoです。

2024年にスーダン紛争の記事で僕がお世話になったwithPlanetさんの記事で「戦争マラリア」という記事が出ていました。
僕は、すぐにその記事を開き記事に夢中になりました。3500字程度の文章でしたが、読み終えた僕は1冊の本を読み終えたような気持になりました。そのまま、パソコンのキーボードをたたき始め、このnote記事を書き始めました。
「戦争」と「マラリア」、どちらも僕のプロフェッシナリズムを強烈に掻き立てられるテーマで、アジア太平洋戦争末期の日本にはマラリアがあったというのは驚きでした。
僕なりの視点でこの記事の簡単な解説と僕の思考展開を綴っていこうと思います。
僕にとって熱量の高いテーマであるため、今回は約4000字のボリュームになりました。読むのに10分弱かかるかと思いますが、日本にはあまりなじみのない2つのキーワードについて、興味を持って読み進めてもらえたら嬉しく思います。

戦争マラリア(withPlanet)を読んで

日本にはかつてマラリアがあった。
戦争によって強制的に移動させられた人々の移住先にはマラリアがという熱帯病が存在し、そこでの人々の恐怖が生々しく綴られた記事であった。
是非読んでみてほしい。


僕とマラリア
医療者の僕は日本でキャリアをスタートさせた。現在では世界中を飛び回り熱帯地域で活動することが多く、国際活動でマラリア患者をみない現場はない。しかし、日本でマラリア患者をみた事はなかった。
熱帯地域に属さない日本には今も昔もマラリアはない、それが僕の今までの認識だった。

2018年に長崎大学で熱帯医学を短期集中で学び、マラリアについての知見をある程度獲得した。その後マラリアの現地医療に関わっている僕から皆さんへ少しだけマラリアについて紹介することにする。

ちなみに僕は2023年冬、母校である東海大学でマラリアの講義をした。
学生たちは、はじめは何の話をしているのかとポカーンとしていたが、講義のポイントを理解した後に楽しんで学んでくれた。
あの時、現代日本ではマラリアという病気が全くなじみのない病気であると再認識したのを覚えている。


マラリアとは

ある特定の蚊
が病気になる寄生虫を人に移し感染する。
ハマダラカ(英名:Anopheles)という蚊と人間の間でマラリア原虫という寄生虫が成長・増殖を繰り返すサイクルになっている。
蚊が人の血を吸血した時に唾液からマラリア原虫は人の血液(赤血球)に侵入。人間の体内で増殖をして身体に発熱や関節痛、重症例では重度の貧血など悪影響を与える。これがマラリアという病気の正体である。感染した人間の血液を別のハマダラカが吸血をするとマラリア原虫は蚊の体内へ移動。そこでさらに成長をしこのサイクルが続いていく。
人と人との間で感染することのない病気である。

マラリアという病気の対応が難しいのには理由がある。
以下に簡単にまとめる。
①予防が難しい
蚊に刺されるなといってもそう簡単にはいかない。ハマダラカは夜に吸血行動をするため、寝ている間蚊帳に入れば蚊に刺される確率は減るが、確立をゼロにすることは難しい。

②人間の免疫機能を回避する
マラリア原虫は赤血球の中にいるため、人間の免疫機能からの攻撃を回避できる。現在治療法が確立されつつあるが、医療介入が遅れると重症化しやすい。
現在は静脈投与のアルテズネット(Artesunate)や内服薬のコアルテン(Coartem)、予防薬のマラロン(Malaron)など薬が現地治療では一般的だ。抗マラリア薬の歴史は紆余曲折を経て、近代で急速に発展した。

※今回はマラリアのことを医療者以外の方もわかるように非常に完結に説明している。一部ニュアンスにしっくりこない方もいるかもしれないが、どの立場にいても理解できる言葉を選んだつもりなのでご理解いただけると嬉しい。

説明の際の用語のニュアンスに関して

日本にマラリアはあるのか
上記で説明した、ハマダラカという蚊。
この蚊が生息できる地域が既に分かっていて、ゆえにマラリアの流行地域や可能性のある地域がわかっている。一般的に日本では、九州以南でこのハマダラカの生息が確認できる。しかし、温暖化で蚊の生息域に変化があったり、マラリア原虫を運んでいる蚊そのものが日本にどのくらい居るか計測することは難しい。
日本でのマラリアの流行の可能性はゼロではないが、確立としてかなり低く、現在日本の臨床現場では、マラリア患者はほとんどみとめられない(マラリア地域からの帰国患者はほとんどである)と、ここでは説明することにする。

殺人生物ランキング
なぜ世界がマラリアの撲滅に躍起になっているのか。疑問に思ったことがある人もいるかもしれない。
その答えは殺人生物ランキングにある。既に知っている人もたくさんいると思うが、マラリア原虫を運ぶ蚊は、人間を最も死に至らしめる生物である。皮肉なことに2位は人間。自殺や紛争、兵器開発技術の向上など、様々な要因がこの数字を急速な勢いで上昇させ、「マラリア撲滅への世界的な活動」と「出口のない紛争の渦」により、近い将来、1位と2位の順位が入れ替わることは間違いないと言われている。

僕は国際緊急支援の医療者であるため、必然的に殺人生物によって引き起こされるインパクトに対応する機会が多い。僕がマラリアと紛争の知見が多くなるのが、皆さんに理解していただけたかと思う。

戦争マラリアという言葉
状況理解の為の前置きが長くなったが、日本で記録された「戦争マラリア」という言葉は僕に強烈なインパクト与えた。

78年前のアジア太平洋戦争末期、石垣島などの八重山諸島では、マラリアによって3600人余りの命が失われました。日本軍の命令により、多くの人がマラリアを媒介する蚊の生息地に移住させられたためです。美しい島で起きた「戦争マラリア」の悲劇は、あまり知られていません。(記事冒頭)

大工さんに協力を依頼したマラリア・ノーモア・ジャパン理事の長島美紀さんは「戦争マラリアの歴史には、今につながる教訓がたくさんある」と語る。
「戦争という危機的な状況の中では、市民には戦闘による被害だけでなく、健康を奪われるという連鎖的な問題も発生する。今起きているウクライナ侵攻にも通じる話です」(74行目ー78行目)

withPlanet原文 一部抜粋

戦争によって移動を強制された人々。その地にある風土病。
戦争という状況がもたらす、劣悪な環境と健康への影響。

まさに、ぼくがチャドやスーダンで対応した状況そのものである。
時代が変わり場所が変わっても、同じことが繰り返されている。


戦争と病気の関係 
戦争が起こると巻き込まれぬよう、そこに住んでいた人たちは安住の場所を失い、あてもなく移動する。
その先にあるのは、多くの場合は水も食料もない地だ。
もちろん、そこには医療もない。

戦争と病気の計算式は、掛け算となり人々を危機として襲い掛かる。
僕のチャドで経験した一部を一例として紹介する。

スーダン紛争によって難民化した人たち。
住む場所を失い、着の身着のまま逃れてきた人たちはスーダン国境を越え隣国チャドの広大な土地に到着する。毎日数千人がその地を目指し、移動をする。広大な土地はものの数週間で人で埋め尽くされる。
これが難民キャンプの始まりである。

水、食料、トイレはそこにはなく、歩いて国境を越えてた人々は移動と暑さで疲弊していた。

生きるための水と食料を確保するために人々は奮闘し、国際機関もサポートをするが、あまりの人口移動のスピードの速さに供給が追い付かず、生きるための最低限の水と食料すら確保できない。
栄養状態は徐々に悪化していき、最初にダメージを受けるのは、子供と母親たち、高齢者だ。
十分な医療機関がないため、マラリアと分かっていても治療が出来ず、仮にコレラのような感染性の下痢症がひとたびそこで流行ればその死亡率は通常の何十倍にもなるのは想像に難しくない。

住む場所を追われた人たちは、通年の食糧確保の手段である農作物の仕込みや収穫というサイクルを根本から破壊される。
命からがら移動し短期的な危機を乗り切れたとしても、中長期的に飢饉(低栄養)が彼らを襲い、マラリア、麻疹、コレラなどの流行性感染症が、生活基盤のない、医療もない場所に待ったなしで襲い掛かり続ける。

支援って本当に必要?
自国で解決できないのか?
人道支援に携わる傍ら、こういった質問をもらう機会も多いぼくだが、この不の連鎖(あくまでほんの一部)を少しイメージする一助になればとこの投稿を書き進めている。

出来ないことはない
「戦争マラリア」の記事の終わりにこんなことが書かれている。

この記事の舞台となった八重山で1962年にマラリアの撲滅の達成。
これが不可能ではないことを証明し、僕らの進む未来が明るい方へと舵を切るヒントをくれている。

実は日本という国は、こういった病気によって引き起こされる危機(日本住血吸虫の撲滅、八重山のマラリア撲滅など)を今まで何度も乗り越えてきた国である。
撲滅のためには、不の連鎖を断ち切るための様々な事象が複雑に絡み合っていて簡単ではない。
それぞれの地で解決への道のりは異なるが、この八重山のマラリアも達成間近といわれるポリオ撲滅への世界的な取り組みも、不可能ではないのだ。


おわりに
殺人生物の第一位が「人間」になるという近未来図。
そんな悲しい事象の防ぐことはできるのだろうか。
そのために今の僕たちに出来ることはあるだろうか。

既に世界の各所で起こっている惨状。
殺人生物の1位が人間になった後、それを撲滅するための活動では遅すぎるし、悲しすぎる。

きれいごとでなく、本気でそれを終わらせよう人々が団結し、努力を続ければ、環境が、時代が、後からついてくる。戦争マラリアが証明してくれたように。



白髪頭になって背中は丸まり、眉間と頬には深いしわが刻まれた未来の僕。
真夏の折、「祝 第150回記念大会」と大きく記された野球大会をテレビで見ながら4人の孫たちとそうめんを食べる。

「昔むかし、蚊と人間が他の何より人の命を奪ってた時代があってねぇ。今は平和になったもんだ。」と子供たちに語り掛ける。

「蛇さん(現在3位)や犬さん(現在4位)、ワニさん(現在10位)で悲しむ人が少なくて済むように何が出来るだろうかねぇ。」
と、大きく変動したとあるランキングと対策の話を独り言のようにブツブツと語り老人をよそに、4人の孫たちは、凄い!打ったよ!とテレビの中の出来事に歓喜している。

思考は実現になる
少なくとも僕は、本気でそこに向かっている


Best,
Tai     (本文 3898文字)

※投稿内容は全て個人の見解です。
最後まで記事を読んでいただきありがとうございます!
よろしければフォローも是非お願いします!!
また次回お会いしましょう。

尚、ぼくの投稿は全文公開にしていますが、有料記事設定しています。
応援し応援される関係になれたらこんなに嬉しいことはありません。
今後ともよろしくお願いします。

ここから先は

0字

いつも記事を読んでいただきありがとうございます!!記事にできる内容に限りはありますが、見えない世界を少しでも身近に感じてもらえるように、自分を通して見える世界をこれからも発信していきます☺これからも応援よろしくお願いします🙌