オブラートで避妊

私はほんの数秒、硬直したのではないか。
でも腕枕くらいノリで異性の友だちとするよね、変に意識しすぎなんだよね。
いや、恋愛経験値がトキワタウンのマンキーくらいしかない私の心はおそらく違うと言っている。

「大丈夫なの…?」と彼女に問う心配のていを装っていた私の顔はおそらくニヤけていただろう。
『大丈夫。』と彼女はそう答えた。
しばらくは、「今日は楽しかった、私はやっぱり地方から来てるのが丸わかりなのかな?イントネーションが変なんだって。」
そんな他愛もない話をした。
「この状況他の人に見られてたらまずいよね。」と私が言うと、くすくすと彼女は笑った。
自然なような不自然なような感じで会話が終わり、部屋は静寂に包まれた。
無言が気まずい私は、鼻をすすったり咳払いをしていた。
そんな無意味な所作をしている中で、私の理性と本能はやかましく葛藤していた。しかし、どこか落ち着いてもいた。

意を決したように、私は彼女にキスをするそぶりを見せた。
彼女はまたくすくすと笑った。

「大丈夫?」と聞くと、彼女は静かに頷いた。


自分の部屋に帰ったのは、朝の5時くらいだった。
同室の渡辺くんはずっと起きていたらしい。
唐突に、「大学で恋愛とかできそう?」と彼に聞いた。
『どうだろ まだわかんない。』と彼は答えた。

その日のプレゼンテーションは上の空だった。
近くのコンビニかどこかでメガシャキを買ってきたが、まるで眠気が死ぬ気配がなかった。

フレッシュマンセミナーが終わり、我々は横浜にあるコスモワールドという中規模な遊園地へ行った。


死んだ顔をした私が乗っているところを写した一枚だが、長らくぶりに目を通してみたところ、自分自身どこにいるのか分からなくなっていた。
楽しかったかどうかも、眠気などのせいで覚えていない。
あの一件以降から、遊園地に至るまで目も合わせていなければ、あの子と会話もしていない。

遊園地の近くの商業施設のフードコートで昼食を摂る際に、あの子の彼氏はやってきた。
軽い挨拶だけすませたが、眠気と気まずさに勝てず一足先にその会合から私は離脱した。

私の記憶がハッキリしたのは、自宅のアパートで起床し20時を迎えた時だった。
どうやって帰ってきたのかまるで覚えていないが、住み始めて2ヶ月少しで帰巣本能が備わることについては感心せざるを得ない。
眠気が死滅したと同時に、自己嫌悪と悶々とした気持ちに苛まれた。

そんな気持ちで、あの夜から中1日空け、夕方にさしかかろうとした矢先にあの子からLINEが届いた。


つづく

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