三文小説

現在私は骨が露出するほどに、親のスネをかじる生活をしている。
そんな私でも、数年前は大学進学を機に上京し、一人暮らしをしていた。
一抹の寂しさと溢れんばかりに開放感が支配する四年間を過ごした。

一度目は入学試験、二度目に大学構内へと足を運んだのは、「履修登録はこうやりますよ、学生らしい生活態度はこんな感じですよ。」などもろもろの説明を10時から13時くらいまで受けるオリエンテーション・ガイダンスであり、mixiであらかじめコミュニケーションを取っていた私より2つ上のレン兄という人物を探そうと思案しながら、指定された教室へと入ると、まず私の目に入ったのは黄色いコートを着た子リスのような女の子だった。

刹那、身体中に電撃が走った。

チンチンに脳味噌が付随している私は、その黄色いコートの彼女に一目惚れをしてしまった。
その段階では私の脳内だけに存在していたレン兄という人物はその雷撃とともに霧散してしまったのであった。

しかし、レン兄は自己再生を始め、現実世界で合流を果たした。
対面のコミュニケーションがいささか苦手である私は、「アッソッスネ オモッテタトーリッテカンジッス ハハッ」と発言するのが精一杯であった。

そんなこんなでガイダンスが始まり、講師の言うことや、これは覚えておかないとということを一心不乱にメモしていたら、消しゴムを落としてしまった。無情にも絶妙に手の届かない範囲に消しゴムは転がってしまう。
対面のコミュニケーションがドブゲボな私は、「すみません」の一言すら躊躇われた。
だがそんな心配は杞憂で、かかとに超微弱な衝撃を受けたのか分からないが、私が落とした消しゴムに気づいてくれた桜色のトレンチコートを着用した女神が、私の汚ったない消しゴムを拾い上げ、ハニカミながら渡してくれたのである。
「アッスイヤセン ヘヘッ」と私は謝辞を述べた。


優しい人だなぁ、と思いながら、再びメモをとる作業に戻ろうとすると、間髪入れず机の上に無造作に置いてしまったチャック全開のリュックサックから長財布が落ちた。
幸いにも、鈍い「ポンッ」寄りの「パンッ」という微妙
に注意が向く大きくも小さくもない音は、 頭髪村 人狼の勝利です みたいな講師の声にかき消されたが、再び女神の傍に落とされた。

「スイマセン…スイマセン…」

『?』

「サイフ…オトシチャイマシタ…」

『…クスクス』

「ホントニモウシワケナイッス…」

穴があったら入りたいと思った。


つづく

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