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【英語論文】キャリアグロースと文脈的視点


TTC(タナケンゼミ)で扱った論文と、そこでなされた議論を記録しておく備忘録的な取り組みを始めてみることにした。文章を書く練習にもなりそうだ。

2022年度、第一回目のTTCで扱った論文は「Individuals’ Career Growth Within and Across Organizations: A Review and Agenda for Future Research」で、組織内外における個人のキャリア成長について述べた論文になる。

ちなみにこの論文は中国科学技術大学のQingxiong Derek Weng氏と南京郵電大学のLinna Zhu氏による論文で、米国の心理学系ジャーナル『Journal of Career Development』に掲載されている。

中国の学術研究は世界の中でかなりの存在感を示すようになってきていると聞くが、これまで中国発のキャリア論関係の論文はあまり見なかった。今後はもっと増えてくるのかもしれない。

① キャリアグロース

最初に気になるのが、この「キャリアグロース」という単語である。いかにもTTCらしい言葉であるが、キャリア論の文脈でこのような言葉を使うのはあまり一般的ではない気がする。

一般的にキャリア関連の論文ではcareer developmentの用語が使われ、心理学的にはキャリア発達、経営学的にはキャリア開発と訳すことが多い。それでもあえてcareer growthという言葉を使ったのには、どのような意味があるのだろうか。

論文を見ると、「キャリアグロースは、組織内または組織横断的なキャリアの進歩(progress)を意味し、職業心理学の文献では数十年にわたり重要なトピックとなっている」と書かれているが、本当だろうか。私は不学なせいか、あまり聞いたことがない。

このような、やや上昇志向的なキャリアの論文を見ると、真っ先に思い浮かぶのは「キャリアにはアップもダウンもない」というサビカスの言葉である。たしかに「キャリア=人生の歩みすべて」という視点に立つと、人生にはアップもダウンもないと言えるかもしれない。

しかし、職業キャリア、特に企業内キャリアに限定して考えた場合、そこには職務階層が存在し、アップとダウンの概念が存在する。これは、シャインのキャリア・コーンなどを見ても明らかである。

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キャリアを人生物語と見た場合、そこにアップやダウンが存在しないかもしれないが、企業内キャリアを考えるときにアップとダウンは重要になる。その違いは内的キャリアと外的キャリアという用語で表せる。

キャリア研究はその両者に関わる必要がある。サビカスは前者に注目したと考えると、今回の論文は後者に注目した研究者による(最新の)論文と考えることができるだろうか。

② キャリアを考える文脈的視点とは?

今回の論文を読んでいてゼミ生から「家族がキャリア成長に影響を与えるというのが分かりにくい」という声が上がった。

彼の場合、進路選択に関して寛容な家族だったため、家族がキャリアの制約要因になるというイメージがつかなかったようだ(もちろん家族はキャリアの促進要因にもなる)。

この論文は、先行研究のレビューをした後に、今後の研究の方向性を示す形になっているが、家族がキャリアに影響を与えるというのは、Recommendation4で論じている文脈的視点からのキャリア研究に関係がある。

文脈的視点からのキャリア研究をより深く理解するためには、社会構成主義について知る必要がある。社会構成主義とは、我々の認識する世界が社会的に構成されているという考え方である。

例えば、キャリアで言うならば、我々のキャリアは元々そこに存在したのではなく、さまざまな他者との相互作用の中で徐々に出来上がっていったものであると考える。

ここで言う「さまざまな他者」のうち一つが家族である。今回の論文に登場するPattonが開発したSystem Theory Frameworkを見れば理解しやすいと思うので載せておく。

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このように、さまざまな他者との関わりの中でキャリアが構成されていると考えるのが、社会構成主義であり、キャリア論の最先端であると言える。

こうした考え方は、ただ現象をモデル化しただけの理論ではなく、実際にカウンセリングなどの場で利用することを前提に作られている。そのため、今後もこうした最新のキャリア構築手法を学び、実践の場で活用していきたいと考えている。

出典


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