いや、忘れない読書なんてものは最悪だろう。

2020年7月21日 21:08

とある書店を散策していたとき、「忘れない読書」なる概念をみた。数多くのベストセラー（？）がランクづけされ、平積みされている中で、何度もみた。どうやら忘れない読書というものが、民衆の間では求められているらしい。

いや、忘れない読書なんて最悪だろう。つい、そう呟いてしまった。多くの人が求めるものが多く売れ、そしてベストセラーになる。しかし、多くの人が求めているハウツーが、ベストセラーの本に書かれたハウツーが、それがどれだけ売れようとも、どれだけ求められていようとも、仮にどれだけ「正しく」とも、そもそも、それが「最悪に向かっていくハウツー」であるならば、それはただただゴミ同然である。

読書は忘れてナンボだ。というか、「本に書いてあること」を記憶などしなくとも、それは「本に書いてあること」なのだから、また本を読めばいいではないか。なぜわざわざ書いてあることを記憶する必要があるのか。読んだら食べる派か？それなら、また新しく買いにいけばいいだろう。

「なんでもかんでも多ければ多いだけ良い」という風潮は、まさに害悪だと思っている。この「忘れない読書」なる概念にも、この汚れた遺伝子の存在をそこに強く感じる。これまで読んだ本を「量」で語り、そして、その内の「どれだけ多くを記憶しているか」を誇る。そんなくだらない連中があとを絶たない。

ほんとうに保持すべきなのは、本質だけである。つまり、重要なのは「どれだけの本質的な知見を保持しているか」、そして「どれだけ本質的でない知見を忘れ去られるか」である。よって、忘れる読書。これが至高のものなのだ。

本質には、なかなか出会えない。それこそすでに多くの本質と出会ってきた者には尚更のことだ。よって、必然的に、読書とは「本質的でない知見」を捨てさる作業へと収束していく。得るために読むのではない。すでに得てきたものを精査し、そして「失う」ために読むのだ。

本質は本質ゆえに、ひとたび観れば忘れない。自分の感覚の一歩先、もしくは、これまで歩んできた軌跡の中にみつけた本質だけは忘れられない。

あまりに自分から遠すぎるもの、もしくは、自分の興味関心から外れる本質は「観ること」ができない。ゆえに忘れていく。それでいい。忘れることは、つまり今は十分だということだ。いづれ、新たな経験からそれを「思い出した」とき、そして、それを何度も繰り返したとき、その本質をはじめて「観る」ことになる。そうなれば、それは保持されるだろう。死ぬまで余生を共にしつづける、本質として。

「忘れない読書」なんてものは最悪だろう。それではまるで「ゴミ屋敷の主」のようだ。なんでもかんでも、無策に溜め込めば良いと思っている。それでは、ダメだ。読書は基本、忘れるものだ。これまで拾ったゴミを、捨てるもの。捨てて、捨てて、捨てた先に「すっかり忘れていた宝物」を部屋から見つけ出す。それが読書というものだ。

しかしもちろん、「忘れられない読書」は至高である。ありとあらゆる多様な経験を豊富に重ね、そこから得てきた本質の保持に勤しみ、そして、多くを捨てに捨てる日々を100日、1000日と過ごした先に、やっと一度、二度あるかないかの、あの瞬間。

この「忘れられない読書」は、もちろん至高だ。しかし、これは「忘れない読書」の進む先にはない。そんなアンテナのうす汚れた受信機がキャッチできるほどに容易ではないからだ。

まったく、忘れない読書なんて最悪だろうに。もっともっと気持ちの良い体験が、それを忘れた先にはあるというのに。忘れるからこそ、新しく知れるというのに。

（と、いつもはここ↑で好き勝手に書いてる）
（今日は著しく駄文なので無料公開してみた）
（初月無料だから、ちょっと覗いてみて）
（良い記事だなぁと思ったら感想ツイよろ）