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海外でもその実力を示すために:🇨🇦カナダ(チーム エイナーソン)

決してエリートコースを歩んだわけではないエイナーソン

カナダ選手権4連覇のチームを率いるスキップと聞くと、“カナダの厚い選手層の中で若い頃から頭角を表し、昔からその世代のトップを走ってきた選手”のようなイメージを持つかもしれませんが、ケリー・エイナーソン選手(Kerri Einarson)は若い頃から活躍が目立っていた訳ではありません。

例えば、カナダジュニア選手権に出場したという記録は見つかりません。現在のトップ選手の中でも、J.ジョーンズ選手(1994年)やR.ホーマン選手(2010年)、先日の女子カナダ選手権(通称スコッティーズ)に出場していたスキップでは他にS.バート選手(2001年、2002年)やA.ケリー選手(2005年)などにも、カナダジュニア選手権優勝という経歴がありますが、エイナーソン選手の場合には、出場すらしていないのです。

おそらく理由の1つには、マニトバ州の1歳年下にケイトリン・ローズ選手がいた(Kaitlyn Lawes、現チーム ローズのスキップ)こともあるでしょう。マニトバ州予選を勝ち進んだだけでなく、2年連続でカナダジュニア選手権で優勝(2008年、2009年)し、世界ジュニア選手権でもメダルを獲得しています。現在世界のトップで対戦しているローズ選手のようなスキップと比べると、エイナーソン選手が“エリート街道を突き進んだ”とは言えないでしょう。

ただ、それでも2009-2010シーズンからは4人制チームので毎年グランドスラム(旧グランドスラム大会も含む)に出場していましたし、2010年と2013年にはミックスカーリング(男女混合4人制)カナダ選手権にも出場していました。

エイナーソンとその家族

若い頃に様々なライフイベントがあったことも、トップ選手としての活動が目立たなかった理由かもしれません。エイナーソン選手は、2010年8月に22歳で結婚しています。お相手のカイル・エイナーソンさんは上記2回のミックスカナダ選手権にも一緒に出場しており、最近でも2人でミックスダブルスの大会に出場しています。また、2013年9月には25歳で双子の娘さんを出産されています。

そんなエイナーソン選手がカーリング選手として活躍したいと思ったきっかけの1つには、おじのグレッグ・マコーレー選手(Greg McAulay)の存在があるそうです。2000年のカナダ選手権で優勝し、そのまま世界選手権を制したチームのスキップです。(ちなみに、そのチームのセカンドは、日本カーリング界に大きな貢献をされたフジ・ミキさんの息子さん、ブライアン・ミキ選手でした。)テレビの向こうで活躍するおじの姿を見て、こんな風になりたいと思ったと、インタビューで答えていました。

また、エイナーソン選手はメティス(Métis)と呼ばれるカナダ先住民族の家系です。カナダには、先住民族の家系の有名選手が何人かいて、男子のクーイー選手とその兄弟姉妹(グウィッチン)もそうです。エイナーソン選手の場合には、マニトバ・メティス財団(Manitoba Metis Foundation)という団体が、2021年からチームのスポンサーとして選手の活動を支えています。

エイナーソン選手には、若くして亡くなられたお兄さんがいたことにも触れておきたいと思います。カイル・フレットさん(Kyle Flett)は1歳年上のお兄さんで、2006年にスノーモービルの事故に遭い、20歳の若さで亡くなっています。カーラーでもあったカイルさんは、前年にはマニトバ州ジュニア選手権の決勝まで進んでおり、その年も出場が決まっていました。今では、マニトバ州のジュニアツアーの1つに「カイル・フレット・メモリアル・ボンスピル」という大会があります。

旧・チーム エイナーソンでの活躍

エイナーソン選手の成績が上向いてきたのは、2015-2016シーズンでした。まずは、その年から始まったグランドスラム「ツアーチャレンジ」のティア2で、ツアー初優勝をあげます。その優勝で出場権を得たグランドスラム「マスターズ」では準決勝まで進出(準決勝の相手は、のちのチームメイトであるV.スウィーティング)。その後、年度内にさらに2つのグランドスラムで準決勝に進出します。また、2014年、2015年と2年連続で準優勝だった女子マニトバ州選手権で、ついに優勝28歳で初めての女子カナダ選手権に出場し、予選を通過して4位になりました。当時のチームメイトは、現在チーム ローズに在籍するS.ニェゴヴァン選手(Selena Njegovan)とK.マクッシュ選手(Kristin MacCuish)、そして、今季はチーム C.キャリーに所属したL.ファイフ(Liz Fyfe)選手でした。

翌シーズンにはグランドスラム初勝利(2016年ナショナル)。その後、2度目のティア2優勝、グランドスラム決勝進出などを通じて、ポイントを多く獲得します。2018年には、初めて導入されたワイルドカードチームとして女子カナダ選手権に出場し、決勝進出するも、チームJ.ジョーンズに敗れて準優勝に終わります。そして、2017-18シーズン後、チームの再編を行い、今の「スキップ経験者4人」のチームを作ることになります。

各選手のスキップ時代

では、他の3人はそれ以前にどのような活躍をしていたのでしょう。

当時すでに一流のスキップとしてその地位を確立していたと言えるのが、現在サードを務めるヴァル・スウィーティング選手(Val Sweeting)です。実際にチーム結成直前の段階では、チーム スウィーティングが世界ランキング6位、スキップとしてのグランドスラム優勝回数は3回だった一方、チーム エイナーソンが世界ランキング8位、グランドスラム優勝は1回という状況で、むしろスウィーティング選手の方がスキップとしての実績は上でした。トップチームのスキップ同士が、1つのチームを作るという点でも、当時は話題になったのでしょう。

リードのブリアン・ハリス選手(Briane Harris)は、ジュニア卒業時にスキップとなり、2011年には旧グランドスラムの大会にも出場。その後、他のポジションを数年務め、2016年のカナダ選手権では初出場だったチーム エイナーソンにオルタネイトとして参加していました。その後、再び2年間スキップをやった後に、チーム エイナーソンに加わりました。

セカンドのシャノン・バーチャード選手(Shannon Birchard)は、ジュニア時代にスキップとしてマニトバ州ジュニア選手権を2回優勝。ジュニアカナダ選手権では、2年連続の準優勝(2012、2013)でした。ジュニア卒業後もスキップを続けましたが、マニトバ州選手権では2016年に準決勝でその年優勝したエイナーソンに負けたのが最高成績でした。2018年には、北京五輪ミックスダブルス代表となったケイトリン・ローズ選手の代わりにチームJ.ジョーンズのサード/バイスとして女子カナダ選手権に初出場。決勝で旧・チーム エイナーソンを破って優勝すると、オルタネイトとして引き続き帯同した2018年世界選手権でも優勝。その直後に、チーム エイナーソンに加わりました。

海外での大会参加に恵まれなかったカナダ王者

その後のチームの活躍は改めて説明するまでもなく、2020年から女子カナダ選手権を4連覇中。連続優勝の最多タイ記録に並んでいます。また、バーチャード選手が5回の出場で5回優勝していることが記録的だと取り上げられましたが、エイナーソン選手も6回の出場で優勝4回、準優勝1回、4位1回ですので、驚異的な成績です。

ただ、不運だったのは、COVIDの流行によって女子世界選手権の開催が影響を受けたこと。2020年から4回出場する機会がありましたが、2020年は直前で中止。2021年はスイスでの開催ができなくなり、🇨🇦カナダのカルガリーで代替開催(最終成績は5位タイ)。2022年は、2020年に開催予定だった🇨🇦カナダのプリンスジョージで開催(最終成績は3位タイ)。

このように海外での世界大会に参加する機会が得られなかったのです。昨年までにこのチームとして海外の大会に参加したのは、2019年3月に🇷🇺ロシアのドゥディンカで行われた「2019 WCT Arctic Cup」だけでした。

今季の世界選手権は🇸🇪スウェーデンのサンドヴィーケンでの開催。それに向けて、2022年12月には🇯🇵日本で行われた軽井沢国際カーリング選手権に出場(最終成績は準優勝)。(海外での大会経験を得る上で役に立ったと、インタビューで答えています。)そして、再び女子カナダ選手権で優勝して、スウェーデンに乗り込んできます。

「世界大会でのカナダチームの不振」も言われる中、カナダでは敵なしとも言える女子カーリング王者が、今回は何色のメダルを持って帰るのでしょう。


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