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スピルバーグ vs NETFLIXの確執、まさかのタッグで順風か

毎日使っている道具は紛いなく、人生のパートナーである。しかし毎日使っているからこそ気づけない劣化を、見落とさないようにせねばならない。業界のデファクトスタンダード、安定の精度、信頼のブランド、それらは過剰な客観視によるメンテナンスの上でしか通用しない。パートナーとの関係には常に、緊張が伴う。もっとも留意すべきは、己の劣化だ。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 サウンドモニター:基準音とは 』

映画は、映像と音でできている。だが映画監督は、映像ヒイキなのだ。スケジュール設計や予算割りをみれば、事実だと判る。そんな映画監督には尚更、信頼できる音楽側の味方が必要なわけだ。“モニターヘッドフォン”という。一般的に販売されているヘッドフォンやイヤフォンは完成した音素材をより効果的に体験できるように、演出されている。完成作品をもう一度、加工しているわけだ。しかしその作品自体を製作する現場においては、無地の、無垢なままの素材を聞き抜く必要がある。スピーカーでも同じだ。信頼の業務用機種は多々あるが、業界には“標準”が存在する。どこのスタジオにもプロの自宅にも必ず転がっている、基準モデルだ。代表的なのが、SONY。レコーディングをしているアーティストやナレーターがつけている、機種名は知らずとも誰もが観たことのアる、あのヘッドフォンだ。

ミクロングラス交換②

“赤いラインのモデル”を、よく観るだろう。業務用機器といえば桁違いの高価な逸品だと想われがちだが、本機はあまりに多く出回っている結果なんなら、デザインばかりの素人用ヘッドフォンより安価なので、よければ試してみるといい。その音が、日常的に貴方が聞いている音楽や動画、創ったままの生音だ。しかし、“デファクト スタンダード(※事実上の標準)”と言い切ることはできない。プロフェッショナルにも知らない者が多いが、赤いラインのモデルが標準とされているのは、日本だけだ。日本では標準、だと理解して貰って構わない。欧米をはじめ、本当のデファクト スタンダードモデルは、下の “青いラインのモデル”だ。音質は、どちらも素晴らしい。間抜けな表現だが、そう表現するしかないなぜなら、両方で聞き分ける必要があるのはモチロンだが、サウンドの仕上げ過程ではスマートフォンの安物スピーカーや量販店販売用テレビの玩具サウンドも、参考にせねばならない。理想的なサウンドを創ることと、理想に近い音をあらゆる環境で再現できるサウンドに収める作業は、異なるのだ。どちらも、素晴らしい。


『 モニターヘッドフォン のメンテナンス 』

ミクロングラス交換①

赤いラインのモデルの劣化を見越して、メンテナンスする。入手してから20年は過ぎているだろう本機は都度の部品交換を続けていることから、購入初期のパーツは残っていない。今回交換するパーツは、“ミクロングラス”という、綿だ。

ミクロングラス交換③

耳に触れるパッドを剥がし、ドライバーユニットというスピーカー部を外すと、ハウジングという空洞を埋めているミクロングラスが出現する。真ん中に置いてある、新品と比べてみよう。日々の極度な湿気と乾燥を経て膨らみ、ヨレて、密度がスカスカになっている。専門的な表現をすれば、ハウジング内を飛ぶ空気の弾性を調整できなくなっていて共振周波数が下がらなくなっている状態。ようは、音が反響し易くなっていてブレる、ということだ。イヤーパッドがヘタっていないにもかかわらず、いわゆる“音漏れ”が出てきたら、ミクロングラスの劣化を疑うといい。交換するとより流出のない、内耳に向かうサウンドになり格段に、疲れが減る。音漏れのあるヘッドフォンをしていると逃げる音を捕まえるべく、無駄に集中してしまっているものなのだ。

あぁ、ところで。

まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:スピルバーグが35年間あたためた企画、実現のカギを握るのは同氏に弾劾されていたNETFLIX

巨匠作家スティーヴン キングの名作「タリスマン」に惚れ込み、35年前の発売と同時に永劫映画化権を獲得したのは、ハリウッドに絶大な影響力を誇るスティーブン スピルバーグ監督だ。長きにわたる労と挫折を続けたプロジェクトがいま、動き始めている。スピルバーグ率いるアンブリン テレビジョン社がプロデュースを担当し、原作者のキングはパラマウント テレビジョン社と連携して、プロデュースに名を連ねている。ショーランナー(※脚本総指揮)には大ヒットシリーズ「ストレンジャー シングス」のカーティス グウィンが登壇。プロジェクトの実現は期待に値する。カギを握るのは、パラマウントが共同プロデュースを決めたNETFLIX社。目標作品である ストレンジャー シングスもまた、NETFLIXオリジナル作品なのである。 - MARCH 05, 2021 THE Hollywood REPORTER -

『 編集後記:』

映画の舞台裏は常に、ドラマチックなものなのだ。覚えているだろうか、スピルバーグはつい4年前に英ITV Newsのカメラの前で大いに語っていた。

「配信作品は、映画ではない。テレビフォーマットの、テレビドラマだろう? 彼らの出資を求めて多くの映画人が流出もするだろう、だが我々映画は1950年代のテレビ誕生から、戦うことに慣れている。NETFLIXは、アカデミー賞にはふさわしくない」

人生で初めて認識した映画監督が、スティーブン スピルバーグ監督だった。126年前の今月、ノートルダム寺院から自転車で15分のスクリーブ パリ オペラというホテルの地下で、映画は誕生した。映画業界はいよいよ、第三種接近遭遇を迎えている。緊張が伴う。劣化したなら、適正な情報は耳に届かない。手入れを怠らなければ、雑音を漏らすようなことも無いはずなのだ。もちろん、ヘッドフォンの話だ。

ココロが夢想に逃げ込まないうちに、映画の元に帰るとしよう。

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