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日本映画人だからこそ、セカイを獲れる

日本の常識は、世界の非常識。
それはその通りだが一方で、ネガティヴな話ばかりではない。
日本の映画人だからこそ、狙える場所がある。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 最近のはなし: 』

几帳面なのだが、完璧主義には疑問がある。
散らかるのは構わないが、汚れるのは堪えられない。
道具も資料も必ず元に戻すくせに、フォルダ整理が下手。
ミニマリストなくせに、仕事道具は1t。

わたしの生活はとかく、アンバランスだ。

ただ、バランスがとれている人、というのが成功できないアーティスト業界ではそれでも、かなりの常識人な部類に属している。

世界が停止する前のカンヌ国際映画祭の会場エントランスで、「入場パスがない!」と慌てたことがある。首から胸に提げていたパスが、見当たらない。ポケットにもどこにも無くそもそも、首から外れるはずも、千切れることも想像しにくい。会期中にはそれこそクレジットカードやパスポートよりも重要なBLACKパスの紛失に大慌てしていたのだが、目の前の映画人はさらに、ただならぬ剣幕で係員に詰め寄っていた。

「会場内にパスポートと財布とPCとランチボックスを忘れてきたんだ!
 取りに入らせてくれ!パス?もちろん中のカフェのテーブルの上だ!」

タキシードを振り乱して熱弁している巨体の映画人だったが、なかなかのアンバランスである。むしろその状況で手ぶらのままよく、会場を出たな、と。別日には、脱いだヒールを置き忘れたその場所を思い出せない、素足にドレス姿の映画人もいた。わたしはまだ、大丈夫かもしれない。

その時、わたしが無くしたBLACKパスは、
首にかけたまま、背中側に回っていた。

さて、はじめよう。

『 最難度日本映画界:企画開発 』

日本の映画界で仕事をするのは、とても大変だ。
実際のところ、本当に難易度が高い。世界にも類を見ないレベルだ。

まず、企画開発が進まない。
どれだけ丁寧に企画開発を続けようとも、一流の実力者はほぼほぼ会社員であり、その会社との提携を実現せねば、協力も得られない。

予算を集めようにも、スペシャリストのプロデューサーがいない。
自分で集めるわけだがそもそもに、そのための仕組みが用意されていない。
企画のピッチが開催されるのもイベントレベルであり、その場のマッチングと同時に製作費が保証されることなど無く、とあらば事業家や投資家を伝いそれこそ、奇跡を祈って人から人へ。そのうちに、有力な実行者へのプレゼンテーション機会を得るための“紹介”を取り付けることが目的になり始める。もう、企画開発どころではない。

『 最難度日本映画界:キャスティング 』

まず、キャスティングができない。

企画に力があれど、業界実績と後ろ盾に著名な既存メディア、企業、スタジオが入っていなければ、交渉テーブルにも上がれない。求められるのは面会ではなく、“先ず企画書”である。

誰が、どんな人物が書いたのかも判らない企画書は外注されたものかも知れず、信用されないのが国際マーケットでの常である。しかし日本は 、先ず企画書。その送付先はプロダクションであり、本人やエージェントであろうはずもなく、マネジャー宛てですらない。

オファー当日の夕方には企画内部のフック、現状の最新Updateを提供して、本人ないしはエージェントの反応を伺いたいにもかかわらず、企画書提出から2週間後に戻ってくるのは、「現段階ではよく判らないです。」という返答。

実のところは、多数の作品を抱える日本俳優陣ゆえに、他企画とのデューデリジェンスにより、“安定している既存企業作品”を優先するための待機期間である。

『 最難度日本映画界:撮影 』

まず、撮影ができない。

圧倒的な慢性人員不足業界は、互いの企画ごとに誰もが、スタッフを探している始末。それもこれもギャラが安いことから、多数の作品を際限なく詰め込まざるを得ない環境により、それを包括できるマネジメント環境も成立しない。自社抱えの制作プロダクションは減少しており、実態は、フリーランスの奪い合いだ。大手企業、メジャー企業企画が優先される。

『 最難度日本映画界: 編集仕上げ』

まず、編集が、

これはできる。基本の編集は監督自身が自らのスタジオで行うことも増えているが、映像表現にしか詳しくない映画監督たち故に、トラブルが発生するのもこの場面。メジャーな編集室に籠もって編集を行えるのは、選ばれた精鋭に限られる。

『 最難度日本映画界: 配給販売』

配給は、絶望的。

日本には、3,000スクリーンしか存在しない上映枠。映画製作者たちが割り込める隙など無く、状況は配給に従事する事情通、配給会社の独占的な環境課にあり、インディペンデントの映画を上映するなど、映画製作全体よりも難易度が高い。当然、製作費の回収など、夢にも届かない。

『 国際映画製作、監督次第 』

では、国際映画界はと言えばまさに、監督次第、だ。
すべてに対して、路がある。これは大げさではない。
なかなかに理解が難しい部分ではあるが、事実を受け止めるしかない。
証明してみよう。

たとえば、英国の高等教育情報誌「タイムズ ハイヤー エデュケーション」発表によれば、“世界の大学ランキング2021”第1位はオックスフォード、第2位スタンフォード、第3位ハーバード。日本最高学位の“東大”は、世界ランキング第36位しかし、東大を卒業することは、第3位のハーバードを卒業するよりも難しいと言われる。

たとえば、日本のCM女優トップランカーになるのは、国際映画祭に出品されるレベルの映画で主演を獲得するよりも、はるかに難しい。確実に。

逆境日本で鍛えられた映画人たちは、世界を獲れる。

あぁ、ところで。
まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:日本人は、アニメーション作品の粗悪な“ハリウッド実写化”を望んでいません。:NETFLIX公式

SNS上の投稿で、NETFLIXが皆さんの大好きな作品を映画化している、という話題を目にすることがあります。今回は日本の人気コンテンツ「ベルセルク」でした。残念ながらNETFLIXは、ベルセルクの実写映画を制作していないことを明確にせねばなりません。最近、NETFLIXブランドの名が入った捏造ポスターがInstagramで拡散され、多くのファンを騙しました。そのInstagramユーザーの名は、「gutscg」。この人物はNETFLIX公式をデザインしたポスターを偽造して、投稿。最下部には「これはジョークです。」と書かれていました。しかし多くの人々はこの一文を見落としました。そして同じ人物は、自身のTwitterアカウントを使い、偽造ポスターを拡散。どこでは“ジョーク”だとは主張せずに宣伝しました。実写版映画「ベルセルク」は、製作されていないのです。そこでNETFLIXが気になるのは、日本人たちが“アニメーションの実写化”を、どう感じているかです。ハリウッドが愛されているアニメのフランチャイズを実写化して、その魅力を破壊してしまうことは周知の事実です。「ドラゴンボール エボリューション」はその、最たる悪例でしょう。ハリウッドがアニメを“虐殺”しているという明らかな評判は、日本でも同じように感じられています。NETFLIXが独自に日本で行った調査「ハリウッドに実写化して欲しいアニメは?」によれば、1,000人の参加者のうち第2位の「鬼滅の刃」ですら、わずかに60票。456票を集めた第1位は、「無し」でした。この小さな調査からでも、日本人は、粗悪な実写化を望んでいないことが判ります。当然、欧米のアニメファンも同様に。 - MAY 18, 2021 THE Hollywood REPORTER -

『 編集後記:』

みごと!
と評するしかない、 “NETFLIX公式” の日刊発表だ。

ここまで個人、他社、過去の実名を挙げて公然と私意を語れる企業が、日本に存在するだろうか。それがエンターテインメント企業、コンテンツ産業界のキングであるのだから、面白い。

この記事もまた、“エンターテインメント”として、コンテンツ化を意識していることは、間違いない。わたし自身、こうして取り上げている辺り、まんまとNETFLIXのマーケティングに食われている証だ。

ただしNETFLIX、

日本人が気に入らないのはハリウッドによるアニメ実写化虐殺なのは間違いないが、日本の俳優たちはそれでもこぞって、ハリウッド実写化作品に出演したがっていること、気付いているだろうか。一部の監督たちにとってはそれこそ“夢”であり、プロデューサーたちならばキャリアと生活を捨てても乗りたい泥舟なのだということに。

NETFLIXが日本の映画界に与える影響は、映画黎明期以上の大激震となる。

そのことを日本の映画人のほとんどが、まったく、判っていない。
NETFLIXのビジネス ストラテジーがもう止まらないことを、わたしは知っている。日本の映画界にコンテンジェンシー プランが存在していないことも。

無念ながらわたしには愛する日本映画界を救う力は無いが、
この潮流の外に、日本の精鋭たちが揃っていることを知っていて頂こう。

日本映画界、テレビ業界、コンテンツ産業に対するルールとマナーなにより、「日本の道徳」を、理解願いたい。

美意識高い日本に学び世界を生きる国際映画人たちと共に、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

■ 太一(映画家):アーティスト業界情報局 × 日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、 監督がスタジオから発する生存の記