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映画製作業界、直近の未来解説:技術編

パンデミック以降、映画製作の現場は急速に進化している。
ハリウッドの最先端メディアが打ち下ろす有料記事から、その内容を解説する。過信するも無視するも、貴方次第しかしその技術をやがて、使う日が来る。知り過ぎておけば、無視もできる。ただし過信は、勧めない。
ハリウッドも、よく間違える。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 最近のはなし: 』

机を買わない。ベッドに寝ない。

わたしは企画と作品に合わせて住む場所を変えるために旅慣れており、私物は多くない。1ヶ月のフランス旅程も3日前に決めて、30分で準備を終えられる。目標はトランク2つで生きることなのだが、まず、映画製作のための常用作業道具が1t あり、コンセントは60個必要で、30,000冊の蔵書をデジタル移行したにもかかわらず資料を保管する2つの倉庫が常にいっぱいだ。

なんという不均衡。ミニマリストな私生活と暴力的な電磁波に包まれた環境は、改善の余地しかない。

そんな中でわたしは長いこと、机とベッドを持っていない。
机を持てば、居座りたくなる。ベッドを持てば、安住したくなる。
人間の生活を捨てたわたしは、映画を創る道具になる。

いまは、“窓”と“照明”を処分する方法を探している。

さて、はじめよう。

あぁ、ところで。
まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:パンデミック下、“仮想制作”が映画製作にもたらす利益

世界の映画製作は大きな影響を受け、多くの作品に甚大な製作の遅れを発生させた。スタジオは撮影場所を限定したり、物語の改編により登場キャラクターの数を減らすなどの工夫も必要になった。そんな状況では、「仮想プロダクション」という選択肢が注目されている。Disney+で放送されている「The Mandalorian」は、仮想プロダクションを選んだことで、2020年3月中旬の“ハリウッド停止”を免れて業界が震撼する数日前、奇跡的な撮影を完了させることに成功した。ワーナー ブラザースの「バットマン」のような大作映画は、方向転換を失敗。ユニバーサル社でも同様、「ジュラシック・ワールド」の3作目、さらに「ウォーキング デッド」の最終シーズンのフィナーレもは共に、公開が1年間、順延された。初期スターウォーズのために設立されながら進化を続け、現在でも世界最大級のVFXスタジオであるI.L.M.では、4つのスタジオに大型のLEDスクリーンアレイを設置することで、グリーンスクリーンの代わりに精巧なビジュアルバックドロップを生成し、映画製作者が実際に使用されるショットをリアルタイムで確認できる。これらのLEDスクリーンには、従来型グリーンスクリーンの“映り込み”を回避するなど、多くの実用的な利点があるが、キャストやスタッフの移動や宿泊を少なくして、より簡単に撮影を行える点も大きい。レンダリングに使用されているEpic社Unreal Engineなどのゲームエンジンが、リアルタイムの撮影からそのままポストプロダクションへの転送を可能にしている。クラウドストレージの改善はポストプロダクション作業のストレスを軽減し、編集者は物理的な場所に関係なく、共有された仮想空間で作業が可能になっている。- MAY 13, 2021 VARIETY VIP+ -

『 編集後記:』

最新型の“仮想スタジオ”が便利に機能している、とう記事だ。

仮想製作やらバーチャルやらビジュアルバックドロップ(笑)などと表現しているが、革新的な進化があった訳では無い。旧来のシステムを組み合わせて、巨大LEDスクリーンに深度を設定したCG背景(または実写をマッピングした3DCG)を映し、その前で演者に演技をつける。

それを、位置トラッキングセンサーをつけたカメラで撮影すればただスクリーンの映像を映すばかりでなく、カメラの動きが反映されて、奥行きパースに合わせて背景が動く。「スゴい! まるで実際に奥行きのある空間を撮影しているみたいじゃないか!!!!!!!!!!」という内容だ。

『 編集後記:世界3大メディア誌も、技術には疎い』

しかしこれが世界3大メディア誌の「VARIETY」、
そのさらに加重課金VIP+のTop記事だというのは、残念だ。

「仮想プロダクション」も「お天気スタジオ」もどれも、オンラインで買えるレベルのガジェットを組み合わせて、“新技術風”を気取っているに過ぎない。この手の“大興奮記事”は増えてくるだろうが、記者が技術に詳しくないために雰囲気記事に帰結する。


「撮影はバーチャルスクリーン前で」←準備が重いので主流にはならない。
「キャストやスタッフの移動や宿泊軽減」←キャストとスタッフは外好き。

なんて具合。
それでもこの記事を取り上げたのは、後半の付随情報部分。
ここにこそ、近未来の映画製作の実態が踏まえられている。

『 編集後記:この部分が重要①』

「リアルタイムレンダリングがポスプロに転送可能」

これは、重要な進化だ。スタジオの撮影中に、ポスプロ(ポストプロダクション:編集室)がフォローアップできる、ということだ。

映画やCM撮影中のスタジオ知っている方は、多彩な機材が溢れているように感じるだろう。だがどれもこれも、“簡易版”である。スタジオという限られた空間は多くの技術部が専有箇所を譲り合う必要に迫られる。

なにより、搬入と撤収はせいぜい各1日。本格的なVFX編集環境を設置するには最低でも2週間を要することを考えれば、簡易版になってしまう理由も判って貰えるだろう。

『 編集後記:この部分が重要②』

「クラウドストレージの改善」

記者が技術素人なために、中途半端な記載になっている。
いちいちデータをコピー、移動、バックアップ、保管せずとも、必要部署がいっせいにデータを共有できる、とうこと。

VFX映像では特に12K(4K映像の9倍)撮影を求めるため、膨大な容量のデータを取り扱うことになる。1日の撮影データ量は軽々と、一般人が生涯に使用するデータ量の100倍を超えるだろう。

それを、オンライン上で共有できる、ということ。これは嬉しい。ただし実のところ、まだアップロードに時間がかかり、不安定さもある。理想型ではあるがまだ実用段階には遠く、超大作映画の裏でも、SSDをタオルにくるんで手持ち運搬している。

『 編集後記:この部分が重要③』

「共有された仮想空間で作業が可能」

記事中で最も、重要な部分である。
記者がもっとも理解できなかった箇所らしく、ごまかして、前項目の“クラウドストレージ”の隙間にねじ込まれている。この記者は、たぶん可愛い。

これは広義で、「クラウド コンピューティング」のことを指している。
誰もが高性能PCに買い換えた経験があるだろう。だがその習慣、間もなく終わる、というもの。

コンピュータ中の情報、ソフトウェア、個人用設定はすべてクラウド上で管理され、ユーザーは作業もレンダリングも書き出しもすべてを“クラウド上”で行う時代、ということ。

ユーザに必要なのはそのクラウドにアクセスする機能がある最低限度の端末だけであり、高性能や大容量は求められない。極端な話、iPadでジュラシック ワールドのスペクタクルを製作可能、ということだ。

これは希望的観測ではなく、一部には実現している。簡易には、皆さんが日常的に使用している「Googleドライブ」や「Googleドキュメント」など。Evernote内でのノート作成や、YouTubeでの動画加工も貴方は、クラウド上ですべてを完結している。

『 編集後記:映画製作、本当に重要なところ』

映画製作は、進化している。
最先端エンターテインメント超大作やディープフェイクなど、映像表現の進化には目を見張るだろうか。いや、もう驚いてはいないだろう。

実は映画人も気付いている。

VFXだ、CGだとこれ以上どんな映像を繰り出したところで手の内がバレている以上、期待が薄れていくことを知っている。
しかし多くの映画人は技術にすがり、想いつくままの進化を推奨している。

起用なスタッフがその技術に気付くのは、まだ先。それが業界に普及する頃には一般観客の期待は薄れており、新たな技術が投入される。

最も進化すべきは、「映画製作現場のソリューション」である。
安全性と時短を徹底することにこそ、映画製作現場の未来がある。
今回の記事のような、準備にばかり時間がかかり低予算作品には実装不可能な “見せ技術” ではなく、実はもっと泥臭い手触りこそが効果的だ。

管理部署の透明化や地域経済との連携、コミュニティ運営が重要なのだが、そうはならない。映画人はみな判っているのだが、その為の“規模”がない。

日本映画界は小さ過ぎるうえ、細かなクラスターに分かれておりかつ、連携が無い。映画は、人間が創っている。技術に詳しくなるよりも、人の気持ちを知ることの方が重要なのかもしれない。

『 編集後記:映画業界編お得情報』

ここまで読了した我慢強くて意識高いクリエイター、アーティストのためにせっかくだから、その先を、案内しよう。

「VR.編集室」だ。

HMD.(ヘッド マウント ディスプレイ)やスマート グラス(眼鏡型ディスプレイ)を装着し、VR.空間内に自在にモニターを出現させ、その中で作業する、モバイル編集空間だ。想像してみて欲しい。

大型テレビからラップトップ、タブレットからスマホにまで、モニターが必要なくなる世界を。機内からアウトドアにまで、自在にIMAXより巨大な4K画質スクリーンや、小さなモニターを100個並べられる生活を。

電源はモバイルバッテリー程度で、最上級の編集室やオフィス空間を持ち歩ける毎日を。まだ、マニア領域だ。しかしもう、実現している。間もなくここに、Appleが参加する。その時、世界がいっせいに想い知るだろう。

アンテナを張り、手をつけ、機材と環境の切り替えに備えるなら、今だ。

逃れられない現実と向かい合いながら幻想を具現化する、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

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