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コンテンツ消費国家、日本。ギリ。

映画を要とするコンテンツ産業が、激動している。
アーティスト、クリエイター、スタジオからディストリビューター、インベスターズまで個人、企業を問わずこの状況を、深く理解する必要がある。目をつむるならもう、未来は無い。反論は無意味だ。これが、現実なのだから。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 誰かのためには、書かない。貴方に書いてる。 』

わたしはアーティストでありながら、国内外大勢の仲間たちの生活を支える立場でもある。だが世直し人ではなく実のところ、愛が世界を救うとは想っていない。必要なのは涙のハグよりも、パン一つ。自己啓発よりも最新の情報だと想っている。

よし、行こう。

まず、日本が世界第3位、というとても強い立ち位置に居ることを理解してもらおう。コンテンツ産業のマーケットには、190ヶ国が参戦している。第3位は、強い。

次に、日本は日本人が創る作品が大好き、だということを理解しているだろうか。日本人が創る日本人用作品を、喜んで観たがる国は、無い。日本人が創る日本人用作品は、国際マーケットの平場には並んでいない。

良いだろうか?

貴方はきっと、日本で活動している。なぜか。この記事を読んでいるからだ。日本語の記事を読むのは日本人であり、日本人のアーティストはよほどのサイコでない限り、日本に生息している。そうしていられるのは、今だけだ。

具体を観ていこう。

『 基本の“国際”情報を把握しておこう 』

世界第1位のマーケットは、アメリカ。第2位は、中国。第3位が、日本。想定内だろう。あと3年で中国は、アメリカに追いつく。その中国は親和的な顔でハリウッドに投資し、ノウハウと企業を持ち帰り、国際地位を得た。

ハリウッドは気に食わない。今まで通りに中国から投資を得ようとしたが、中国は反発。両者は対立構図のまま、ハリウッドの第1位マーケットを共有しつつ、中国資本の“中国映画”を受注するハリウッド工場、の形を維持している。現在公開中の「ゴジラvs.キングコング」などだ。

そんな中、中国経済は失速、拡大しかけた中国マーケットを保守するために中国当局は、自国映画のみならず、プロパガンダ映画の上映枠確保を命令。諸外国のヒット映画の中国内公開に、制限を与え続けている。

中国の孤立は続くが、ハリウッドが弱体化し続けている現状からその他各国は、インドの成長に注目しつつ、中国との関係も維持しようとしている。成功している国は、ロシアのみ。コンテンツ産業全体への影響力にはなっていない。

ハリウッドは中国を、信じていない。中国はハリウッドに立腹している。では、日本の立ち位置はどうか。

『 日本というチャンス 』

日本。中国とアメリカの争奪戦に加わることなく、日本人のための映画を日本人だけで製作し、日本国内で空前の興行収益を上げている。各国は、自由気ままに好調を維持している日本マーケットを、嘲笑している。

祭りに沸いているからだ。喰われていることにすら、気付かずに。

日本最大の映画会社は、東宝。
最大の映画スタジオもまた、世田谷にある東宝スタジオだ。
絶対王者の東宝。東宝スタジオの中にある最大のスタジオと、最新鋭のスタジオ、この二つは複数年契約で、NETFLIX専用に貸し出された。

NETFLIXは、アメリカの会社だ。ハリウッドを飲み込む勢いで急成長し、現在のライバルはディズニーとAmazonのみ。その巨人NETFLIXは各国に、ローカルプロダクションを創設している。“日本支社”だ。

ローカルプロダクションとは、
その国の中でその国のスキームを使い、その国を主収益とする作品を創るための戦略型スタジオだ。日本はもう、東宝を獲られた。各国の状況も、変わらないのだが。

ご存じ、ストリーマーであるNETFLIXの他にもさらに、HBO Max、Disney、Amazon Primeそして、Appleが同様の計画を進めている。
日本は、どう対応しているだろうか。

大歓迎、している。
巨大なチャンスが到来しているように、みえているのだ。

『 日本市場の発展、という身売り 』

日本の優秀な製作者たちは次々と、諸外国用の映画を創るための工場員にされている。しかし、人数が足りない。NETFLIXはすでに、日本国内に教育機関を発足し、“日本クオリティ人材の育成”をはじめている。

海外で活動している精鋭たちには、ダイレクトの連絡がある。ロビー活動はとても丁寧で、アーティストたちは自身の夢を叶えるための全て、いやそれ以上のチャンスを提供され、その実行力を歓迎している。

どうだろうか。

給料は、かつての倍。授業料は無料。インターン中もギャラあり。始動した企画に口は出さず、予算は莫大。公開は全世界同時。一社の同時製作本数300作品は、126年の映画史上最多しかも、毎年40%の本数が加算されている。

「大チャンス到来!」と喜ぶアーティストがいることも、理解できる。
しかし、本当にそうだろうか。

それは、未来を前払いで喰っているだけの、身売りなのだ。
中国にハリウッドが喰われた、そのままに。

『 アニメーションという至宝 』

日本が各国から求められているのはマーケットの大きさだが、まったく求められていない不人気なコンテンツ群の中で、別格、求められているジャンルがある。「アニメーション」だ。

コンテンツ産業における世界第3位の日本だがしかし、ことアニメーションに関してはアメリカのディズニーに次ぐ世界第2位。クオリティで評価される場面においては、圧倒的に、世界の頂点に君臨している。

各国のアニメーション業界で頂点を極めたアニメーターや製作者たちは、日本にやってくる。中央線沿線のアパートに暮らしながら、日本の小さなデスクに向かい、“日本のアニメーション”を製作する毎日を送っているのだ。まるで、大リーグを目指す日本人さながらに。

ディズニーのアニメは「3DCGアニメ」という、コンピュータ画。手描きの2D画で自在なディフォルメを駆使し、リミテッドアニメーションという現代の表現手法を研ぎ澄ませた、世界最頂点に立つのは、日本のアニメーターたちなのだ。

『 喰われる。 』

そのアニメーターたちがいま、喰われている。
諸外国の作品を創るばかりで名は売れず、作品収益は還元されず、本数が激増する中で暴力的な作業量に疲弊し、消費されている。日本アニメーションを世界の頂点に押し上げた功労者たちの、老齢化も見過ごせない。

間もなく、日本の技術はすべて、奪われる。
日本の人材は会社ごと、世界に流出し、各国は自国内で、「日本クオリティのアニメーション」を製作するようになる。

現に、中国のアニメーションは既に、日本人アニメーターたちを唸らせるクオリティに達しつつある。

実写映画界、アート界、その他クリエイター諸氏は確実に、その流れに飲み込まれる。目の前の高収益は、ある日突然、失われる。夢のような制作環境は続かず、その後に残されるのは、ちりぢりバラバラになった、日本映画界、という残骸だけになる。

『 タイムリミット 』

日本は消費され、不必要とされるだろう。
日本の技術、日本のマーケットが必要とされている今が、
世界と交渉できる最後の機会だ。

このタイミングを逃したなら、日本のコンテンツ産業は永久に立ち上がれなくなる。日本は各国コンテンツの、“消費者”になる。

「世界第3位のマーケット」、「アニメーター」、
我々に残されているのは、この二つのカードのみだ。
日本にいる以上、無関係なアーティスト、クリエイターはいない。

2つのカードを武器に、
世界と交渉し、自身のみならず、業界のためになる決断を続けていかねばならない。今しか、ない。タイムリミットが、目の前に迫っている。

あぁ、ところで。

まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:サンダンス国際映画祭、ベルリン国際映画祭の主催者が証言。「従来通りの国際映画祭は、もう戻ってこない。」

国際映画祭を代表する二つの主催者が、証言した。サンダンス映画祭とベルリン映画祭の芸術監督は、進行中のパンデミックの影響で、今後のイベントに対する不確実性が高まっていることを認めた。「状況は悪化している。対面式のイベントを開催することは可能だろう、しかし、元通りにはならない。」6月のベルリン国際映画祭が計画されているがそれも、ドイツ連邦政府とベルリン上院の判断次第。「準備はしているが、我々に決定権は無い。ただし、ベルリン国際映画祭の大きすぎる影響力ゆえに、潰すことはできないはずだ。」また、サンダンス映画祭の芸術監督も証言した。「今年はオンライン開催を余儀なくされました。一言で言えば、"ふーっ "という感じです。」物理的なイベントの不足は映画配給の国際ビジネスに、影響を与えている。映画館での配給は低迷しており、取引額は低下。作品へのリスクも高まっていると言える。一方で、小規模のインディペンデント映画には好機だ。製作リスクを避けた大作の出品数が減り、インディペンデント映画への注目が高まっているのだ。本年以降も現状と同様、リアルイベントとオンラインのハイブリッド開催が主流になるとみられている。 - APRIL 20, 2021 SCREEN DAILY -

『 編集後記:』

国際映画祭は、“映画“を“ブランド”にしている唯一のメディアだ。オンラインと対面開催のハイブリッドは聞こえが良いばかりで、ソリューションとして機能していない。対面開催のボリュームが下がれば話題性は低くなり、メディア露出は激減する。露出が減れば、ブランド価値は落ちる。

国際映画祭に限らない。いま我々は業界の壁を忘れて、映画、そしてコンテンツの可能性を存分にアピールし、それを実行していかねばならない。個人や作品単位ではもう、どうにもならない。友人知人の作品と、ジョイントすべきだ。コラボレーション、じゃない。もう、連携しなければ“ブランド”に弱すぎる。ブランドに弱ければ、ニュース価値にはならないだろう。ブランドの威光を失ったなら、我々が人生を賭している物体は、「作品」では無くなってしまう。組もう。わたしが手を挙げる。

近未来を紡ぐために今を、今日を賭す映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

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