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🔴いつも大安吉日20 〜なんにもないけどなんでもある〜

【なんにもないけどなんでもある】

その日の夜は前から声をかけてくれていた人との約束があった

そこに向かってリアカーを引いてごみ拾いをしながら歩いていた

「日本徒歩縦断中」

そんなノボリを見てひとりの男の人が声をかけてきた

昼から寿司をごちそうになった
年も少し上くらいで話しもあう
それは楽しい時間だった

店を出てから「よかったら今夜うちに泊まりなよ」と言ってくれた
歩いて進めるほどよい距離にその人の家があったみたいだ

もっとこの人と話したい
宿もありがたい

まだ会ったことのない誰かとの約束もそりゃ大事だけど、いま目の前にいるその人とぼくはいたかった

毎日50キロくらい進んでしまうぼくがその人と会えるのもそのときだけだった

いまも何日か先の予定を聞かれたとき
「そのときにならないとはっきりわからないな」と答えるのはそんなことがあったからだ

いつもあのときを思い出す


タイミング

ぼくのタイミングと誰かや何かのタイミングがあう

流れみたいなものなのか

そのときのひらめきもある

1週間ぶりの伐採仕事の1日目が終わり、陽ものびてまだ明るいので出来ることをやる

台風でやられた佐久穂の家の沢水を引き込むための黒パイプを取りに行こう

もう13年くらい経つかな
標高1000メートルの山の中に農場を作る準備を仲間としていた

道をつくって、建物を立てて、水を引き込んで

冬が終われば仲間が畑を耕しているが、農閑期のいまはだれもいない

そこにつづく林道もいまの時期は通行止めになっている

着くころには薄暗くなってるだろうし、今夜の泊まる場所も決めてなかった

ひさびさに山の農場に泊まろう

この急展開がたまらない

これだから「そのとき暮らし」はやめられない

すてきなときがそこにある予感しかしない

いきあたりバッチリな予感


あるものがない

麓の町から1時間

なつかしい山道を進む


杉と檜がビッチリ植林されていた山は少しばかり手入れがされはじめていたがまだまだ暗い


冬に葉っぱを落とす木は四季ごとの景色をつくる

向こうに見える夕日がきれいだ


だんだん道には雪が多くなって気温も低くなってきた

農場のゲートを開けて中に入っていくと鹿がたくさん走っていった

むかし鹿が入らないように農場を囲った柵は役に立たなかったんだな

暗くなる前に黒パイを軽トラに積み込む
ストーブの前には薪を積む

ちょっとほこりっぽい布団も敷いて、ろうそくも探しだす

農場に人が来ないこの時期、ここには電気がない

携帯電話の電波もない


真っ暗になって見えるもの

ストーブの近くとぼくの横にろうそくを灯す


ストーブでそばを茹でる
現場でもらったねぎを焼く

しばらくするとふたつ点けていたろうそくのひとつがフワッとなってちいさくなった


火は自らろうを溶かし最後は芯だけになった
芯だけが燃えた

やがて静かに消えた

あきらかに暗くなった

小さいろうそくひとつでもあるのとないのじゃ明るさが全然ちがった

のこったほうのろうそくがただ静かに燃えてる

ぼく以外だれもいない
ぼくと火だけだからか

まったくゆらゆらしないろうそくの火がただ燃えてる

ぼくもそれをただ静かに見ている

外に出ると星が同じ高さにたくさん見える

冷たい空気がきもちいい


解放される空間

いちばん近い民家でも20分は急な山道を下らないとだ

人工的なものは何も視界にはいらない

おっきな声を出してみる

だれもいるわけがないとわかっていても、はじめは抑えながら声を出した

全開で叫んだ

大安吉日やの小唄を思いっきり唄った

布団のところに太鼓があったことを思い出した

思いっきり叩きながら思いっきり唄った

太鼓のリズムにあわせて勝手に言葉が出てくる

『なんにもないけどなんでもあるよ

なんにもないけどなんともないよ

出してみようよ自分の声を

出してみようよ出せる声を

なんにもないけどなんでもある

なんにもないけどぼくがここにいる

なんでもない
なんでもある

なんにもないけどなんでもあるよ』

気持ちがよすぎて
スッキリしすぎて
言葉がとまらなかった

なかにもどるとろうそくは消えていた

山からとってきた薪が燃える火のあかりだけ

外とつながるものは何もない

心配も不安も後悔も何もない

ぼくのいまと火がここにあるだけ

ただそれだけ

まだ日の出まで何時間かある夜中に起きて東の空をみると橙色にぼんやりした月があがったばかりだった

あたまの中を言葉にする

おてんとさまが顔を出すのを楽しみにしてたけど、この山は朝から雪になってた


これはこれでまたいい

今日はどんな世界にぼくは飛び込めるかな

ではすてきな日を


五穀豊穣 
子孫繁栄 
大安吉日や さかいひろし

#大安吉日や
#佐久穂町 #大日向
#もちつき #出張もちつき
#ぽん菓子 #出張ぽん菓子







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