L is B(Life is Blog) #5 「Feel on !」 祭りの終焉編

前回までFeel on!の拡大と成長について書いてきましたが、第3回目の今回は夢破れて挫折するお話しです。
この挫折は、私自身の貴重な糧となっていて困難な状況を迎えた時に、
どのように考え、どのように行動したか?を振り返りたいと思います。

2012年6月、シンガポールのエシュロンでFeel on !の英語版をリリースし、東南アジアや中南米等でユーザーが増えていきます。毎日ダウンロード数が伸び、またFeel on!でPOSTされるTweetが指数関数的に伸びていき、次の戦略を練り始め、資金調達の準備をしていたころでした。

ビジネスモデルとは?

ところでこのTwitterアプリ、楽しいのは分かったけどどうやって売上立てるの?と疑問に思われた方もいらっしゃると思いますのでそのあたりのお話しをします。

このビジネスを、ひと言で言うと「広告モデル」です。

現在のところ、インターネットの商売は大別すると3つに集約されます。

①ユーザー課金モデル
→サービス利用者からお金をいただくモデルです。各種ゲーム全般や音楽配信、サービスの利用料を使ってる人からもらうモデルです。(当社のdirectもこれ)

②広告モデル
→利用者は無料かそれに準じた安い費用で使う代わりに、広告を配信して広告主から収益を上げるモデルです。Youtubeやinstagram、FB等のSNS全般、ニュースメディア等もこれに該当します。

③リアルなモノやサービスをネットに置き換えるモデル
→ネット通販に代表されるような時間と場所を越えて手間を解消したモデル(買い物=Amazon、楽天、旅行=Expedia等、フリマ=メルカリ等)

これらをうまく混ぜ合わせてビジネスが構築されています。

Feel on ! は、Tweetを解析してそのTweetにふさわしいイラストを表示することが出来ます。
なので・・・例えば「お腹空いたな〜!」というTweetがあると、以下のように自動的に変換できます。


それを応用すると、こうなります!


”チキン”というキーワードを企業に販売し、イラスト部分をその企業のキャラやクーポンに変換することで広告主への送客につながります。
しかもこの広告はスマホベースですので、街を歩いている人に配信が出来る為、GPSと連動して近隣のお店への直接的な送客が可能となり、O2Oモデル(Online to Offline)の草分け的な存在でもありました。(2011年~12年頃のお話しです)

SNSは友人や好みの相手とつながります。つまり自分からの距離が近い人同士がつながりますので距離が近い人のTweetを広告に変えると、それは広告ではなく情報になるのでは?と考えました。
しかも、言葉そのものが商品になります。言葉の数だけ商品になるのでGoogleのキーワード広告と同じ事が出来る!と考え、利用者を増やしていく活動に益々力を入れていきました。

こうしてFeel on ! は日本語版、英語版共に順調に伸びていき50万ダウンロードを超えていきました。ところが・・・

青天の霹靂(TwitterAPI変更)

2012年8月、Twitter社が新たな方針としてTwitterの情報利用を制限する方向に舵を切ります。

Feel on ! 英語版リリースからわずか2ヶ月でこの事業をこれ以上拡大出来なくなってしまいました。。。

Twitter API 1.1とは?
サードパーティ製のクライアントアプリは、ユーザーが10万人以上になったときにTwitter社への連絡が必要だとのこと。すでに10万人をオーバーしているのであれば、今日の時点でのユーザ数の200%のトークンが発行されますが、それも満員になった場合はTwitter社の許可が必要となります。つまり、これからはTwitter社に許諾をもらわないとアプリの継続が出来なくなります。

このAPI変更は、既に10万ユーザーを優に超えていたFeel on !からすると、現状ユーザーの2倍を超えた時点(つまり100万ユーザー)でTwitter社に許諾が必要となり、1ユーザー毎に課金されてしまう可能性を含んでいました。
広告配信先がTwitter社に握られるわけです。
プラットホームをTwitter社が握っているわけで、逆らっても勝てる相手ではありません。それまでエコシステムだなんだいって担がれていた我々の様なサードパーティは完全に梯子をはずされてしまいました。

順風満帆で進んできた事業でしたが、突然死刑宣告されたわけです。
また、この発表の2ヶ月前に尊敬する父が鬼籍には入ったのと相まって、2012年後半は父を失った悲しさとAPI変更の悔しさと怒り、先の見通せない不安に包まれた日々を過ごしていました。

先の見えない不安

さて、この先どうしよう・・・?
VCから資金調達していたら多大な迷惑をかけていたなぁとホッとした反面、
これまで親戚から借りていた借金、社員の再就職先探し、来月の給与支払い等々、お金の心配が頭の中の大半を占めるようになりました。

間違っているはずのない記帳したばかりの通帳を何度も検算したりと、運転資金の工面を考えてるうちに一日が終わり、夜も眠れなくなりました。
寝ても覚めてもお金の工面の事ばかり・・・。

そんな日々を過ごしていた時、突如受託開発の依頼が舞い込みます。

当時の開発パートナーとして一部委託していた会社の社長が、我々を心配して開発の手伝いをしてくれないか?と打診がありました。

我々はソフトメーカーから独立していたので、自社サービス以外の仕事(受託開発)は未経験でしたし、当時受託開発は悪という風潮がスタートアップ界隈にはあり、「受託やったら終わりだよ、、」などと、したり顔で講演していた起業家の言葉に感化されたこともあったのですが、

「信じて付いてきてくれている社員の給与遅配や減額だけは絶対にしたくない!」
という強い想いから二つ返事で受託開発に取り組みます。

C向けサービスから受託開発へ

受託開発に取り組み始めた頃、日本を代表する通信会社の方から家庭向け専用端末のアプリ開発依頼が舞い込んできます。恐らくTwitter社のAPI変更ニュースをご覧になって当社を気にかけてお仕事を依頼頂いたのだと思います。

実際にお会いすると、コンシューマ向けにサービスを企画されていて、当社のFeel on ! のセンスやデザインに興味を持ってくださっているとのこと。

受託開発したことないので、要件定義書なんていう言葉も知らず、工数見積?なんだそりゃ?って感じでしたが、
件の要件定義書に記載されてる通り作るよりも、もっと面白くて良いモノを提案出来そうなので、企画を練って提案してみました。

この時のご担当の方は、企業名や企業規模などを気にしない、先入観にとらわれない方で、我々の提案を面白がっていただき、デザインや機能も含めてほぼそのままご採用いただきました。(日本を代表する大手通信会社の方ですが、とても柔軟な発想の持ち主で当社メンバーは皆、この方が大好きでした。)

この時、我々が大切にしたのは「お客さまが求めている付加価値の本質を見極め、期待を大きく上回る成果でお返しする」こと。
 これを「攻める受託」と呼び、当社の開発姿勢になりました。

提案段階からデザインにこだわり、UI/UXにこだわり、プレゼンテーションにこだわり、提案を受けたお客さまを笑顔にすること。
お客さまの期待を大きく超えること。
これが当社の文化となっていて、ビジネスチャットサービス「direct」やチャットボットFAQ「AI-FAQボット」もこの時の経験を元に進化を続けています。

攻める受託の発想で提案し、ご採用いただいたサービスの一つが
JR西日本様の忘れ物チャットサービスです。

(忘れ物チャットサービスについては、また別途書きたいと思います。)

困難を克服できた顧客思考

当時は、ただがむしゃらに活動していましたが振り返ってみると、
受託開発=言われた事をそのまま開発するのではなく、ポジティブに捉え、お客さまの求めているものの本質を理解し、お客さまの立場で一緒に考える姿勢が良かったと思っています。

資金が底をつき、家族には何ヶ月も給与を渡せなかった時期もありましたが、社員への給与遅配や減額は一度もせず、退職者もほぼ出さずに難局を乗り越えることができました。困難な時期を一緒に過ごしたメンバーは今も健在で当社の重要なポジションを担ってくれています。

起業後リリースしたアプリがいきなり成功して、国内外でちやほやされて、いっぱしの起業家のように浮かれ、調子に乗っていた僕にとってこの試練を乗り越えた事は何物にも代え難い貴重な経験でした。

日本では創業後10年継続できる企業は1割と言われています。
今年なんとか10年目を迎えることが出来るようになったのもこの試練のお陰です。 受託開発などしたことが無い会社に仕事の依頼をしてくださったご恩は今も忘れていません。ご恩をお返し出来るよう当社を更に成長させたいと思っています。

かくして、Feel on !事業の失敗は、僕にとって起業とは?を教えてくれた重要な出来事となり、また当社の大切な歴史となりました。

乱文に最後までお付き合い下さりありがとうございました。

※このブログはL is Bの社長である僕が日々考えていること、思っていること等々を不定期で徒然なるままに書いていこうと思っています。


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