しぃのアトリエ歴史探訪〜ギコルチェス・トーアという男(後半)〜

【承前】

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しぃのアトリエ100スレ記念企画『トラベルガイドを作ろう!』は、ギコルチェス・トーアの「新聞記者」という役割を最大限に活かすものだった。時は新キャラ戦国時代。前年の『モナーブルグ夏祭り』の大成功を受けた参加者の増大、スレ消費速度の加速によって、多くの作者が自キャラ・自組織顕示欲に飢えていた。「新聞記者による取材」という形で自然にうちのこアピールを行えるとあっては誰にも飛びつかぬ理由はなく、丁寧で筋の通った導入も相まって本企画は歓迎をもって迎えられた。

しかし、本企画最大の功労点はそこには無い。

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企画用新キャラにして"先輩"ギコルチェスを慕う16歳の女の子記者見習い、アサヒ・エディトリアルちゃんの登場である。

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ちょーかわいい。

本企画の発起人は2006年夏参入の通称「出汁」氏。血で血を洗う新キャラ戦国時代最盛期にリハイム・ラークと奥山九十九をBAR.タカラギコ常連組としてあっさり定着させたスレ随一のヒットメーカーであり、キャラ同士の軽妙な掛け合いによってそれぞれの旨味を引き出す事にかけては他の追随を許さぬ実力を持つ。アサヒ・エディトリアルの起用は、まさにそうした彼の真骨頂と呼ぶべきものであった。

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ベテラン新聞記者という立ち位置こそ優秀なものの、厨二病の入った黒コートの中年男性という単独ではイマイチ動かしにくかったギコルチェス。そんな彼が、未熟で暴走しがちな後輩キャラ・アサヒとの掛け合いによって、化けた。先輩と後輩、ボケとツッコミ、慕い慕われ凸と凹……ありとあらゆる「おいしい関係性」の結束点がそこに現出したのである。神の御業であった。光あれ。

任意の状況・集団内に気軽に投げ込める客観視点の有用性、掛け合いの楽しさ、さらにかわいい女の子が描けてその上ラブコメも盛れるとあっては筆者も飛びつかぬ理由はなく、気づけば半月で130レス分のAAを描いていた。それだけの魔力があった。悪魔の所業であった。

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『モナーブルグ果樹園』の取材。小ネタ発祥の小組織であっても記者の目を通すことで豊かなネタが生まれ、世界観の拡張にも寄与する。

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『SB新聞社員の長い1日』より。もはや取材などどうでも良く、歳の差ラブコメが描きたいという純粋な欲望が臆面もなく、非常な強さがありつよい。

新聞記者コンビとしてその存在をスレに定着させた二人の活躍は大成功に終わった本企画内にとどまらず、スレの節目節目において印象的な活躍を残していく。

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2011年に行われた「テンプレ争奪戦」敗戦組後夜祭から。乱痴気騒ぎにキャラの立った二人を第三者としてとりあえず放り込めば、つっこませても同調させても楽しい。

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2012年『ギルガメッシュの夜』最終話より。事実を収集する新聞記者という役割に「あの一夜」を否定させる事で、"繋がれない"残酷を強調している。

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2020年『エンキドゥーのオープニングナイト』より。事実としては否定した「一夜」を、物語として受け入れる。あまりにも美しい奇跡のような対称は、かつてモナフォルクの塔の頂きに子供じみた夢を背負わされた、ギコルチェス自身のバックボーンも反映されたものだ。

奇しくも同日にアトリエスレに参入した、ギコ種の男性二人。その明暗はくっきりと分かれた。かたや「しぃのアトリエ史上最も成功した参加キャラ」たるギコムント・ホーン。かたや、船出早々「DAT堕ちキャラ代表」の地位を背負わされてしまったギコルチェス・トーア。しかし。

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彼は、「しぃのアトリエ史上もっとも鮮やかな救済を得たDATキャラ」としてその名を刻むに至ったのだ。

『シーナ・タウンゼントの日常』より。​生み出されては使い捨てられる参加型スレの暗部「DATキャラ」に深く切り込むシビアな作品の中で燦然と輝く彼の救済。比喩でもなんでもなく、アサヒ・エディトリアルはギコルチェス・トーアの救いの天使だった。


さて。

2018年に連載が開始されたAA長編スレ『HOLY EYE』に、見覚えのあるコンビが登場する。

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AA長編界隈において、スレの垣根を超えたキャラやネタの貸し借りはさほど珍しく無い(元々しぃのアトリエは「その垣根を低くするために建てた」とのスレ主の述懐もある)。スターシステムキャスティングなどよくある事。筆者も、アトリエスレ住民にとっては嬉しいささやかなファンサービスとして受け止めていた。

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アトリエスレのギコルチェスとアサヒのような軽々とした微笑ましいやりとりから一転、「眼持ち」を狩る為に生徒を危険に晒す冷徹な一面を明らかにする。

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その正体は、精神に異常をきたした元特殊部隊員。「眼持ち」を狩る為、自ら人造魔眼を手に入れたカノッサ機関の諜報員。

第8話「Gicolchess」において、彼の過去について更なる掘り下げが行われた。

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これ以降の展開について、ここで筆者は語る筆を持たない。是非各人の目でお確かめいただきたいが……連載中、Twitter上での『HOLY EYE』作者∧◆tLHIYOYOBI氏と筆者のやりとりを引用して、本稿を閉じたく思う。

ただ、目を逸らさず見届けようと思う。あまりにも数奇な、ギコルチェス・トーアという男の、今なお続く旅行きを。

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