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進化するがんとの闘い方

以下は、『若い読者に贈る美しい生物学講義』の17章、「がんは進化する」の内容をまとめたものだ。

*がんとは多細胞生物の中の単細胞生物!?

単細胞生物はその名の通り、一つの細胞のみでできた生物だ。

一方、多細胞生物は細胞がたくさん集まってできた生物だが、ただただ単細胞生物が集まっただけではない。

私たちヒトは多細胞生物。
誰でも最初のスタートは受精卵というたった一つの細胞であり、それが細胞分裂をして、大人(成体)になると40億個もの細胞になる。

細胞分裂の過程で、細胞は大きく2つの種類に分かれる。
⇒・子孫に受け継がれる可能性のある細胞<生殖細胞
   ・受け継がれない細胞<体細胞

ex.)・手
手は体細胞で出来ているが、自分の代で使い捨てで、手から子どもは生まれず、手の細胞が子どもに伝わることもない。

一方で生殖細胞は、使い捨てではなく子孫に伝えられる。
生殖細胞は多めに作られるため、実際に子孫になるのはその一部

すべての生殖細胞には、永遠の命を持つ可能性があるということが、体細胞との違い。

つまり、単細胞生物=自分自身が生殖細胞のようなもので、

単細胞生物(≒生殖細胞)+使い捨ての体細胞=多細胞生物

と言える。

細胞がたくさん集まった生物の中で、細胞が1種類のものを「群体」、2種類以上のものを「多細胞生物」という。


通常、体細胞の分裂回数は決まっている!
何回か分裂するとそれ以上分裂しなくなる!
場合によっては自ら死んでいく体細胞もある。

そのような”よく言うことを聞く”体細胞によって私たちの体はできている。

ところが、一部の体細胞の遺伝子に突然変異が起きることがある。
DNAのコピーミス
放射線によるDNAの変化
⇒細胞の性質変化や、分化した細胞の未分化細胞への逆戻りを引き起こす

⇒すると、分化した体細胞の中に、未分化の細胞「単細胞生物のようなもの」)ができる。
=まわりの言うことを聞かない細胞
どんどん分裂し、子孫を残そうとする

これは、生物の生存本能で、そうやって数十億年生物は生き延びてきた。

ただし、多細胞生物にとっては困ることになる。
⇒「単細胞生物のようなもの」がどんどん増えていく。場合によっては多細胞生物の体を積極的に壊す!

多くのがんは、この多細胞生物の体の中に生まれた単細胞生物(のようなもの)のこと
=分化した体細胞の間に生まれた未分化細胞のこと。

*がん細胞は進化する

がん細胞が分裂して2倍になる時間は速ければ1日と言われている。

もしも、がん細胞が毎日2倍に増えれば、腫瘍の大きさは、100日でだいたい100億×100億×100億くらいの大きさになるはずだが、実際には100日では2倍程度にしならない。

それはなぜか。理由は2つある。

①増えたがん細胞の大部分が死んでいくから

がん細胞も、他の体内の細胞と同じように酸素や栄養が必要となる。
が、がん細胞は増えていくのでがん細胞どうしの奪い合いになる。

②免疫システムががん細胞を殺すから

私たちの体には毎日数千個のがん細胞が生まれていると言われているが、それらを免疫システムが片っ端から殺してくれるため、がんにならずに生きている。

さらに、もしがんになっても、抗がん剤ががん細胞を殺してくれる。


しかし、それでもがん細胞はなかなか絶滅しない。
それは、がん細胞が進化するからだ。

がん細胞が細胞分裂をしていく間に、通常の細胞のおよそ数百倍の頻度で、突然変異が起こる

突然変異が起こる=細胞の性質が変化する
突然変異が起こったがん細胞がさらに分裂をすると、新しいタイプのがん細胞も増えていく。


がん細胞のタイプが多いほど、さまざまな攻撃に対して「耐性」を持っている可能性が高く、がんの根治が難しくなる。

*がん細胞の転移

さらに状況を悪くさせるのが、別の臓器への「転移」である。

実は、別の臓器に転移したがんは、新しい環境に適応できずに大部分が死んでいく。
が、一部はなんとか生き残る。

そうして別の臓器で生き残ったがん細胞は、以前とは異なる自然選択を受ける。
そうして、以前とは異なるがん細胞へと「進化」していく。

*免疫システムの細胞vsがん細胞

ヒトの身体の免疫系を担当する細胞の一つにT細胞がある。
※T細胞のTは胸腺(Thymus)で成熟することから

T細胞の一種、キラーT細胞はがん細胞を破壊する能力を持つ。
キラーT細胞の表面に、「T細胞受容体」というタンパク質が突出していて、がん細胞などの、自分以外の抗原(特異的な免疫反応を示す原因物質)を認識している。

キラーT細胞の表面には、アクセルやブレーキの役目をするタンパク質も存在する(非自己の抗原に対する反応の調節を行う)。

攻撃を弱めるブレーキの一つが、「PD-1
(1992年、京都大学の本庄 佑さんの研究室の学生だった石田靖雅さんによって発見)

がん細胞はPD-1に攻撃されないよう、PD-1に、「PDL-1」というタンパク質を結合させる。
このように、がん細胞は攻撃されないような戦略をとる。


この戦略をくずすアイデアの一つが、
ブレーキに「ふた」をして踏めないようにすること。

キラーT細胞の表面に突出したPD-1に対する抗体(ある物質に特異的に結合するタンパク質)を作り、PD-1に結合させる!
既にPD-1に抗体が結合していれば、がん細胞がPDL-1を結合させることができない!
⇒結果的に、キラーT細胞ががん細胞を攻撃できる!

*がんに対する新しい治療法の開発

上記の発見により、ヒトが本来持つ免疫を利用しがん細胞を攻撃させる新しいタイプの治療薬「オプジーボ」が生まれた。
この業績により本庶さんは2018年ノーベル賞医学・生理学章を受章した!

ちなみに、免疫のブレーキとなるタンパク質にはCTLA-4もあり、発見したJames Patrick Allisonさんにも同年度、ノーベル賞が贈られている。


今までの主な治療法

・抗がん剤の投与
・外科手術
・放射線治療

新しく生まれた治療法

・免疫細胞の利用


自分の研究室でも、がん細胞を殺す新しい治療法を開発している。
いずれはそちらについても取り上げたい!



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