ヌシのいた日々
ある日のこと。動物好きの次男(小3)が、ガマガエルを解体!…いや、飼いたい!とせがんできたので、奥三河の山奥まで赴き捕獲してまいりました。
何故ガマガエル?…という話は、いきなりトップスピードなので容赦無く割愛します。
今回は次男とカエルの出会いからお別れまでの物語なのです。
そして写真の立派なカエル様が、もうひとりの主人公であるガマガエルの「ヌシ様」です。
控えめに言ってもメチャクチャでかいです。
お父さんだって、こんなバカでかいヤツを捕まえるつもりはありませんでした。
もっと小っちゃいのを2〜3匹かわいらしく飼うつもりだったのです。
しかし時期が悪かったのか散々探して1匹も見つからず、あきらめて帰ろうとした父子の前に立ち塞がったカエルこそがヌシ様だったのでした。
やっと見つけた獲物ですが、想定外過ぎるサイズにドン引きしたお父さんと長男(小6)を尻目に、次男が光の速さで捕獲します。
こ…こいつ、いつの間にそんな技を……
成長した次男がカエルを素早くケースへ移したまでは良かったのですが、めちゃめちゃ窮屈そうでした。
それもそうでしょう、だって思ってたのと全然大きさが違うのですから。チワワの犬小屋にブルドッグを閉じ込めるようなものです。
相当機嫌が悪そうなカエル様に、お父さんは申し訳ない気持ちで一杯になりながら帰路を急ぎました。
ケースの中でカエルがモゾモゾするたびに、「キュッ、キュウッ!」と鈍い摩擦音が車内に響き渡ります。
読書が大好きな文化系長男たーくんは、その音を聞きながら、車に乗せられ見知らぬ土地へ連れて行かれるガマガエルのドラマを幾重にも紡いでしまったようで、家に着く前に勝手に疲労困憊していました。
帰宅後、お父さんとはるちゃん(次男)は、カエル様のお住まいを用意するべくホームセンターへ向かいます。
奥三河の主(ヌシ)のような立派なカエル様に住んでいただくのだから、くれぐれも失礼があってはならない。スイートルームに匹敵する快適空間をご提供しなければ…
もはや、はるちゃん以上にお父さんの方が使命感に燃えています。
ちなみに名前は秒で「ヌシ」に決まっていました。
ネットで色々調べながら必要なものを揃えていきます。今回初めて知りましたが、世の中にはガマガエルブロガーさんたちが結構いらっしゃるのですね。
そしてレジで気づいた時には、とんでもない金額になっていました。
マジか…オタマジャクシを連れて帰るのも成体を連れて帰るのも同じ一つの生命なのに、責任感がケタ違いです。
帰宅後、はるちゃんとさっそく準備に取りかかり、プール&シェルター完備の豪華カエルハウスが完成しました!
食事は獲れたてのコオロギとダンゴムシです。
運動不足で病気にならないように、散歩の時間も決めました。
「しばらく飼ってみて、難しそうだったら山に帰してあげようね。」
「うん、分かったー。」
3週間後…
なんとなく、なついたっぽいです。
最初はどうなるものかと心配しましたが意外と普通にペットしていて、ビビってたお父さんも余裕で触れるようになっていました。
ただ、エサを食べてくれないのです。
ペットショップで教えてもらったエサ用のヨーロッパコオロギ(通称パワコ)にも全く手を出しません。
店員さんも、「この時期はあまり食べないので心配しなくて良いですよ。」と言ってくれたけど、やはり気になります。
試しに「ガマガエル エサ 食べない」なんて検索すると、カエルの拒食を心配する飼い主さんたちのブログが結構ヒットして珍しいことではないようなので、しばらく様子を見ていました。
その後も毎日元気に散歩するし、うんちやおしっこもしているので大丈夫そうではありますが、環境の変化によるストレスも拒食の原因になるようなので、そろそろ限界かなぁ…と思っていたところ…
「お父さん!ヌシがパワコに噛まれて出血してるよ!」
「お父さん!ちゃんとエサあげてたのにパワコ達が共喰い始めたよ!」
…:(;゙゚'ω゚'):プルプルプル……
「はるちゃん…」
「なにー?」
「ヌシを帰そう…奥三河の山に。」
「う…うん……わ、分かったー。」
是非もなし。こんな巨大なカエルを死なせでもしたら、家族全員夢でうなされそうです。
ヌシさま、およそひと月のあいだ申し訳ありませんでした。元のお山へお送りいたしますので、奥三河の大自然の中で立派に天命をまっとうしてください。
はるちゃんと共にヌシを捕まえた山へ行き、山道脇の木材置き場へヌシを放つと、のそのそと暗闇へ消えていったのでした。
「さよならヌシ。達者でねー!」
寂しそうなはるちゃんの手を引き駐車場へ戻る道すがら、最初にヌシを見つけた岩場の小さな水たまりに大量のオタマジャクシがうごめいているのを発見しました。
こんなところで大丈夫だろうか?雨が降らなかったら干からびてしまうのでは?その前に他の動物にやられやしないか…?
はるちゃんも心配そうです…
「はるちゃん…」
「なにー?」
「全部は無理だけど、何匹か連れて帰ってカエルになるまで育ててあげようか?」
「うん、やったー! ねぇお父さん、もしかしたらヌシの子供たちかも知れないね!」
「うん、そうだね。じゃあ、ヌシの分も大事に育ててあげようね。」
(おしまい)
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