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「ナイフか拳銃か」、SNSについて語り合った「田原カフェ」の夜

僕は、月に一度、
喫茶店のマスターになり、
若者たちの話を聞いている。
以前このメルマガでも紹介した、
「田原カフェ」である。

「田原カフェ」は、
母校早稲田大学のほど近く、
70年以上の歴史を持つ、
「喫茶ぷらんたん」を会場に
昨年3月からほぼ毎月開催している。

12回目となった1月16日は、
ジャーナリストの津田大介さんをお招きした。
テーマは「SNSは人を幸せにするのか」。
津田さんは、ここ10年くらい、
「SNSで同じ考えの人が集まり、
デモなどが起きて、
現実の社会や政治に
影響することが増えている」と言う。

たとえば「アラブの春」、「#MeToo運動」、
「脱原発デモ」などである。
さらに津田さんは、
SNSの一番ポジティブな活用例として、
「クラウドファンディング」を挙げた。
よいアイディアがあり、意欲もあるのに、
資金がないという人が出資者を募るのだ。

また、店などの経営危機を救った例もある。
この「喫茶ぷらんたん」も
新型コロナウイルスの影響で危機に陥ったのだが、
クラウドファンディングによって、
蘇ることができた一軒だ。

津田さんは、しかし、
SNSの恐ろしさも身をもって体験している。
津田さんが芸術監督を務めた、
「あいちトリエンナーレ2019」の、
「表現の不自由展・その後」が、
強烈な批判にさらされ、
SNS上でも炎上したのだ。

当時の津田さんの行動を聞き、
僕は心底すごいと思った。
津田さんはなんと、
抗議を繰り返す右翼団体に連絡を取り、
話し合いを申し込んだのである。
ホテルの1室で津田さんは一人、
相手は5人ほどで3時間も話し合った。

もちろん合意には至らなかったが、
団体の代表が「意見は違うけれど、
自分たちの話を聞いてくれてありがとう」
と言い、別れるときには、
「君のファンになったから」と、
手を振ってくれたという。

僕もかつて、ある右翼団体に、
脅かしを受けた経験がある。
街宣車がテレビ局に押しかけ、
自宅にまで来たので、
「きっちり討論しよう」と団体に申し入れた。

僕は結局二度にわたって、
たくさんの右翼団体の代表に集まってもらい、
徹底的に討論した。
終わってみると「思想は違うけれど、
気風が気に入った」ということらしく、
握手攻めになっていた。

SNSは僕も活用しているし、
誰もが発信できて、
人々が団結する手段として、
とてもおもしろいと思っている。
しかし人と人が話し合う、
大事なことを決めようと思うなら、
やはり直接会うことが必要なのではないか。

津田さんも「合意形成のためには、
膨大な時間をかけて話すことだ。
SNSはその効率化のツールでしかない」と語った。
最後はやはり、
Face to Faceが大事だと確信した。
政治においてももちろんそうである。

しかし、日本の政治において、
最も大事な「Face to Face」の場である国会で、
きちんと対話がされて、
物事が決まっているだろうか。
おおいに疑問である。

「田原カフェ」に参加してくださった人たちの話もおもしろかった。
「SNSはナイフと一緒で、
使い方次第だと思う」と発言した方がいた。
これに対して津田さんは、
「ナイフと拳銃」に例える。
ナイフは人を傷つけることもあるが、
料理などの役に立つ。
しかし、拳銃は限りなく武器でしかない……。

津田さんは、SNSの使われ方が、
「ナイフから、より拳銃に近づきつつある」と警鐘を鳴らす。
やっぱり直接顔を合わせ、
話すことはおもしろい。
改めてそう実感した夜だった。
「田原カフェ」はまた来月開店します。
☆写真は佐藤洋輔さん撮影