僕の「伝説の朝食」動画はなぜたくさんの人に見られるのか


テレビの仕事をするようになって、
半世紀以上。
僕は視聴率というものを
常に気に掛けながら、
番組を作ってきた。
「視聴率なんて気にしない。
いい番組を作ればいいんだ」
と言う人もいるが、
僕はやはり視聴者の反応あっての、
テレビ番組だと思ってやってきた。

ここ数年、僕も動画番組に
出演するようになった。
テレビと違って、
視聴者が好きな時に、
好きな番組にアクセスできる。
発信する方も、免許も資格も要らず、
費用もほぼかからない。
面白い世界ができたものだと思う。
その動画配信の世界では、
「再生回数」が、
テレビの視聴率に当たる。

僕が出演している動画配信の中で、
何が一番人気か?
なんと、僕が黙々と朝食を準備し、
そして黙々と食べる番組だという。
朝日デジタルでは148万回再生。
僕の「田原総一朗チャンネル」でも、
「伝説の朝食」としてシリーズ化し、
74万回、52万回……
たくさんの方が見てくださっている。

この数字を聞いたときは、
ともかく驚いた。
政治や経済を熱く語った回よりも、
ただ黙々と朝ごはんを食べる番組の方が、
再生回数が多いとは……
少々複雑な思いがよぎった。
とはいえ、それ以上に、
視聴者の反応は面白いものだと感心した。

僕の朝食は豪華でもなくごくシンプル。
しかも30年以上ほぼ変わらない。
並べた3つのグラスに、
牛乳、リンゴジュース、爽健美茶を注ぐ。
フライパンに水を入れ卵を落とす。
焼かないから、目玉焼きではなく、
ポーチドエッグというらしい。

冷凍保存している食パンを焼いている間、
冷蔵庫からあんぱんとヨーグルトを出し、
レタスをちぎる。包丁は使わない。
トーストが焼けたら、
厚めのバターをたっぷりのせる。
イチゴなど季節の果物を添えれば完成だ。
その日のスケジュール、
仕事の段取りなどを考えながら、
山と積まれた資料や原稿に囲まれ、
黙々と食べる。

それにしても、
なぜこんなごく普通の、
僕の朝食シーンを、
こんなに見てくださるのか。
当の本人の疑問を、
作家の本橋信宏さんが、
見事に解説してくださった。
日刊ゲンダイのコラムから
引用させていただく。

「田原さんが朝食を用意して
黙々と食べるシリーズは、
スタート時から圧倒的な好感を呼んでいる。
書き込みの一部。
<この動画、謎の中毒性があり、
何度も見にきてしまう>
<なんじゃこの背中で全てを語る
モーニングルーティーン、かっこよすぎる>」

そして、本橋さんは、
あるドラマのシーンを思い出したという。
1974年に放送された、
ドラマ『傷だらけの天使』、
萩原健一の朝食シーンだ。

「ショーケンが新聞紙を
エプロン代わりにして、
トマト、コンビーフ、魚肉ソーセージを頬張り、
牛乳で流し込む。
あれも男1人飯だった。(中略)
田原総一朗と萩原健一。
男の朝飯がこれほど人を惹きつけるとは。
男の1人朝飯はハードボイルドなのだ。
生き抜く原点なのだ。
だから人を惹きつける」

あの名優ショーケンと並べていただけるとは、
こそばゆいが、とてもうれしい。
そして、
どうしてみなさんが見てくださるのか、
という疑問がだいぶ晴れた気がした。
僕は美食家ではない。
食事とは仕事へのエネルギーであり、
朝食であれば、
その日の仕事をやりぬくため、
バランスよく栄養を注入する作業。
まさに「生き抜く原点」なのだ。

世界から食材が集められ、
多様で豪華な食事ができる、
豊かな現代の東京で、
30年以上もほぼ変わらないメニュー。
黙々と、ただひたすら、
いい仕事をするために食べる。
こんな朝食があってもいいだろう。
たしかにそれは本橋さんの言う、
「ハードボイルド」かもしれない。
ポーチドエッグの黄身は、
いつもとろりと半熟なのだが。