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1ダースの恋 Vol.12

「いらっしゃいませ」
一番に店に入ってきたのはかれんだった。

なにも言わず、コップを磨いている陽の目の前のカウンターに座り込むと、再び入り口のドアが開き、
「いらっしゃ・・・なんだ光、と亜美ちゃん」
だがふたりは何も答えずに奥のテーブル席へと向かった。

「光の あの顔は 正念場だな…頑張れ…はい! とりあえず お水!」
水をかれんに差し出す。

「お兄さん…随分年が離れてる? でも似てるわ、そのひょうひょうとしたところ」
亜美と光を追っていた視線を外し、足を組んで頬杖をつく。
ちらと視線を持ち上げ陽を見据えるかれんは、もう一方の手で水の入ったグラスを手に取り、もったいつけたように口に運んだ。

「そう? まぁ 一緒に居るからなぁ…似てくるも…」
だが、陽の言葉を待たずにかれんは、ちらりとテーブル席のふたりを見、

「だいたい想像つくでしょ?」
別れ話をしに来たのだ…と示唆する。
「入ってきた瞬間に 思わず 呟いちゃったよ」
『やれやれ』という雰囲気を醸して 陽は 答えるしかなかった。

「はぁ、やんなっちゃう」

「なんかあったの?」

「あたし、最近おかしいの。最近じゃないか…亜美といると調子狂う」
そこで、亜美がひとりではこれないから「付き合え」とここまで連れてこられて来たことを話すと、
「二人って 姉妹みたいだよね。 うちら 兄弟も 大概だけどさ。」
自然に抱いた印象を かれんに 告げていた。

すると かれんの顔に 翳りが 見える。
陽は かれんの中にある『本音』がある気がして 彼女の言葉を 待った。

「いつも引き立て役だった。だって亜美、かわいいもんね~。あたしみたいに、攻撃的じゃないし」

「攻撃的ではないんじゃないかな? それは かれんちゃんが 目の前の相手に対して 向き合っている証拠でしょ? 俺には 優しく見えるけどね?」
陽の言葉に かれんの瞳孔が 少しだけ 見開かれたことを かれん以外は 知らないまま かれんは 陽への気持ちを 隠すかのように 平常心を 保とうとした。

「解ってるんだけどね」

「解ってるのが すごいじゃない。」
陽の この一言が かれんの言葉を開いた。

「最初はあたしも、頑張ってたんだ。亜美ほどの気づかいはできなくても、さ。自分なりにね。でも、同じことしてても同じように伝わるわけじゃない。結局、亜美にはかなわなかった。…当然か…」

「憧れちゃったんだな…きっと。 」
本人が 意図しなくとも 周りに人がいて 助けられてしまう人間というのが 一定数 存在する。
それは 紛れも無い事実だ。

陽は かれんの 亜美への『憧れ』に似た『嫉妬』を 感じとっていた。

「お兄さんも、あたしみたいな冷めてて生意気な女、嫌いでしょ?」

「どうだろう? 判断出来るほど かれんちゃんの事を 知らないからね。」
大した回数も 会ってなくて 話したことも無いのに 答えられるはずもないわけで。

「もう。そういうとこだよね。そこは真に受けずに流すところでしょ。お兄さん、商売下手…」

「ははは…」

「この先どんな付き合いになるかもわからない人間に対して、そんな風に…。笑ってごまかさないだけましか」
かれんは、それだけ真面目なんだろうけど…と付け加え、
「そんな風に扱われることが慣れてないんだよね」
ひとりごとのように遠い目をした。


「昨日彼に言われたの。もうついていけないって…あたしは、本当のことしか言ってないけど」
まさかの自分のプライベートを吐露するかれん。

「嘘つかれるくらいなら よっぽど マシに 思うけどね 俺は。」

「自分に嘘つくの辞めたんだ。でも、それがまわりにはキツく見えるらしくて…」

「周りなんて 気にしてたら キリないんじゃない? コテコテに デフォルメされたキャラクターを演じてても 息苦しいだけだろうし。素直な方が 可愛いもんだよ。」
かれんは 陽の毅然とした態度に 安堵していた。

ここは 素直に 言ってみてもいいとさえ 思わせた。

「お兄さん。やっぱ似てないわ。光くんとは全然違う。大人だわ」

「そういう意味じゃ 俺も 冷めてるのかもね。かれんちゃんみたいにさ。」
『二人』は 奥に座って 話し込んでいる『二人』を 見詰めながら『クスッ』と 乾いた笑みを 向け合っていた。

かれんが 水の入ったグラスに 目を向けると 優しい笑みの陽が グラスに 反射していた。

「かれんちゃん。 俺 かれんちゃんみたいな子 嫌いじゃないよ。」

「また…。そういうとこ、だよね」
照れ隠しにかれんは氷を頬張って口の中で転がした。だが、そんなことで頬のほてりがおさまることもなく・・・・

流れるように微笑む陽がグラスに水を注いでいく。2杯目はレモンピールの浮かぶ気の利いたものだった。
かれんの気持ちとは 裏腹に グラスに注がれた水は 無風かのように 凪いでいた。


まだまだ未熟者ですが、夢に向かって邁進します