妄想家族 『I LOVE YOU』
ある夜、月が出ていた
ふと思い出して息子に「月がきれいですね…だっけ?」と聞いた
『I LOVE YOU』を「あなたを愛しています」なんて陳腐な(と言ったかは定かじゃないが)言葉ではなく「月が綺麗ですね」とでも言っておきなさい…と語ったとされるのは明治の文豪
確かに、当時の日本は「あなたを愛しています」なんてこと、口に出して言ったものか想像もつかないが
それに似た、母の好きな言葉は「お慕い申しております」・・・・だ
更にそのセリフを吐きながら、顔を赤らめ、相手の胸につつつ…と倒れ込む
そんな時代を夢見ている
とは、息子には言えない。もはや現実でもない
でもこれ、男が自分の純朴笠に着て「身分が違う」とか「生活ができない」とかいう「今」を見てない隠れ蓑の下の度胸なしが言わせた言葉
女は「今」しかみていない・・・・(少なくとも母は)
だって、いつどうなるか解らないし、気持ちを知らずによそに行くなんてありえない。だから女はなんでも知りたがるのか?
「お慕い申しております」に対して、なんて返してほしいのかまで考えていなかった・・・・あ、ただ抱きしめてくれたら「OK」ってことかな?
「月が綺麗ですね」
「死んでもいいわ」
これはお互いに想いあっていてこそ成立するやりとり
せめて切った張ったの時代に、夏目漱石氏が「月が綺麗ですね」を流行らせてくれていたら、女はたとえ好きな男と結ばれなくてもその言葉だけで生きて行けただろうに・・・・
だが、月に愛を誓うロミオにジュリエットはこう言った
「夜ごと形を変える月になど、愛を誓わないで」と・・・
ころころ変わるのは女の特権だろうに、と思いながらも母はなるほどと思う
さて『あいらぶゆう』・・・・「愛羅武勇」と書いたのはだれが最初か
それは昭和の愛情表現。では平成は? 令和は?
「月が綺麗ですね」に変わる言葉を平成生まれの息子に訪ねた
:オレ、文学少年じゃね~もん
:ならばお前は「愛している」とどストレートに言えるのか?
:え~? そういうこと? 言えなくはないけど…
そこで会話は終わった
:おかあさんは?
聞かれても、母の理想はもはや昭和でもない
そうだなぁ…やっぱり、
つつつ…と身を寄せ「ずっとこうしていたい」とでも言おうかな
こちらは「百瀬七海」さんの「I LOVE YOUを日本語訳せよ」という企画に参加させていただくために書きました