見出し画像

1ダースの恋 Vol.8

「へぇ…それで? 亜美的にはどっちなわけ?」
「どっちって」
「ひとがいいのもいい加減にしなよ? 彼氏はキャッチセールスとは違うの! 声掛けられた人全部に答えてたらただの尻軽じゃん」
「なにいってんの? だいたい光くんについてけって言ったのかれんじゃん」
「そうだけど・・・」

「ねぇ、あたしに自分のモテキひけらかしてるわけ?」
いつものドトール、いつものふたり。だが、少々かれんはオーバーヒート気味で、
「はいはい、それで? どうだったの、こないだのかっさらいデートは」
ストローでカップの底のチョコチップを弄びながら、対峙する亜美を見ずに語るかれん。その態度はいつも通りのようで、だが伏せられた目は座っているような気がした。
「かっさらいデート?」
様子を窺うようにゆっくりと答える亜美。
「あたしの亜美ちゃんを~、突然『スキになりました』って言って~、さらってった年下くんよ」
カラリ…とカップの中のアイスが音を立てる。
あたしの亜美ちゃん…そういうかれんの言葉は実に彼女らしくて、いつもとなんら変わりないように見える。だがなんとなく油断ならないと思わせる空気が否めない。
「あぁ、あれね。ん~まぁまぁよ」
疑いながらもあいまいに答える亜美。
「なにそれ、歯切れの悪い」
「悪い子ではなかった」
「ふ~ん」

その時亜美の携帯電話の着信音が鳴った。
画面にはしっかりと「律さん💛 」と・・・・

亜美は、ヤバイ…と思った。
しばらくおとなしかったかれんの「青いハート」を呼び起こしてしまったかもしれないと、思ったからだ。

「ちょっと亜美!」
「はい…」
「て・ん・び・ん?」
「そうじゃないの。律さんにはお礼をしようと思ってて…」
「へぇ・・・」
(あっちの方が好みだったのか…樹似の年下くんより…?)
一瞬考えるようなしぐさをするかれんだが、
「で? 天秤じゃないならどっち?」
だんだんと口調が荒くなるかれんを前に、どこかでトイレに立たなければ…と亜美は思案する。
「答えて、亜美ちゃ~ん…」
「ちゃ~ん…? あぁ、はい」
「どっちか決めてんだよね? それとも、余った方でも、あたしにあてがってくれるとでもいうの?
静かに語られつつもなにか異様さを孕んでいる。
あれだ、やっぱり「青いハート」が発動したのだ。
「え~と、いったんトイレ行ってもいい?」
「ほんとに行きたいならね」
かれんの目が座ってる。
(見抜かれてる~・・・・)

学生時代のかれんにはそれはそれはかわいらしいあだ名があった。
忘れていたわけではない。油断していたのだ。ここのところのほんわかとしたムードにほだされ、こんな事態を予測していながらうっかりやり過ごそうとしていた。
かれんは決して悪い子ではない。ただ、昔から白黒はっきりしないことに異常なほど嫌悪感を示す。そう、簡単に言えば「切れると怖い」むしろ「切れたら手に負えない」そんな彼女のあだ名は「ロールパンナ」。赤いハートと青いハートを持つ、あのキャラクターになぞらえそうやんわりと呼ばれていた。

亜美!
「はい!」

「あたしはまたつまらない相談をされるわけ?『どうしよう』『ふたりとも素敵』『どっちかなんて選べな~い』…そして、引き立て役よろしくあたしが出張っていくのよねぇ? 花嫁の父の如く怒り心頭で! いい加減にして!
テーブルを叩いて立ち上がる。
「あぁ…かれん」
「トイレ」
亜美を見下ろし、そういうと、落ち着くためかゆっくりと洗面所に向かっていった。

「本当は、答えは出てるんでしょ」
戻ったかれんの言葉。

自分の戸惑い、かれんの憤り、全てに振り回されそうになる。
ふぅーと私は大きく息を吐いた。
「かれん。ごめんね。いつも優柔不断な私で、それでも見持ってくれて
くだらない話につきあってくれて、支えてくれて本当に有難う。」
私はかれんの目を真っすぐ見据えた。
不意に変わった空気を受けてかれんの青い炎が彼女の瞳の中で静まっていく。座りなおしたかれんに向けて、私はそのまま言葉を続けた。

「かれん、貴方は私にとってはかけがえのない大切な存在よ。
いつも助けてくれてありがとう。相変わらず優柔不断なこともあるけど、
変わらず仲良くしてくれると嬉しい。」
そういってかれんの両手をギュッと握りしめる。
飲んでいたドリンクのグラスから雫が静かに滴り落ちる。

かれんの青い炎はとうに消えていて、すっかり元の穏やかな彼女に戻っていた。
「律さん…か」
その問いには無言で応えた。

「きっちりケジメつけなさいよ」
「でも、最後まで付き合ってよね」
「はぁ。ほんと、亜美は相変わらずよね。何かさぁ、いつもはフラフラしていて危なっかしいことこの上ないくせに、何かする時は急に大胆不敵になるんだから。」
「ふふっ。」と笑う私に「ふふっじゃないわよ!」と笑いながら私の頭にチョップを入れるかれん。
「ま、でも良いわ!亜美のそういう部分を見抜けたという意味では律さんだっけ?彼も見る目があるわね。とは言え、何かあったら変わらず私にちゃんと話してよね!!約束よ。」
そう言ってウィンクするかれんに亜美は「ありがとう」と笑いながら頷くのであった。



まだまだ未熟者ですが、夢に向かって邁進します