短編小説 夏の香りに少女は狂う その6
このシリーズは、こちらのマガジンにまとめてあります。
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「ちょっと待って、リンちゃん」
『ヤバくなってもいい』というリンの言葉に、義之はうろたえているようだった。
「ん?」
リンは再び、隣に座る義之を見る。
その目には、強い意志が宿っていた。
そして…
誘っているような、そんな視線でもあった。
「それ、どういう意味か、わかってる?」
義之は、慌てている。
「うん、わかってる。キス、された時はびっくりしたけど」
キス以上のことを、リンはしてみたかった。
義之ならいい、むしろ義之の手で「初めて」を経験したい。
純粋に、そう思ったのだ。
同年代の「男の子」では、物足りない。
やれ彼女が欲しいだの、ナンパに行くだの言っている同級生の男子に対して、リンは「ただのガキやん」としか思えなかった。
でも、義之なら…
「リンちゃんがそう言ってくれるのは、俺としては嬉しいけど…でもなぁ…」
俺、一応嫁さんおるし、と義之はつぶやいた。
「でもヨシくん、ヤバいんやろ?」
いたずらっぽく微笑んで、義之の顔を見る。
そう、明美が「その顔で男子を見つめたら一瞬で落とせる」と言った、その表情で。
義之は、ちらり、と横目でリンを見た。
「うわぁリンちゃん小悪魔か」
頭を抱える義之。
誘惑と現実の狭間で、揺れているようだった。
「ヨシくん…」
リンは、手を伸ばして義之の頬に触れた。
「ん?」
驚いたように、義之が顔を上げる。
いつも微笑んで見える、形のいい薄い唇に…
今度は自分から、唇を重ねた。
自分でも驚きの行動だった。
まさか、こんなに積極的になるなんて。
もしこの夜、義之と台所で鉢合わせしていなければ。
こうは、ならなかっただろう。
その思いが、リンを積極的にさせていたのかもしれない。
「…んんっ!」
今度こそ、リンは心臓が口から飛び出すかと思った。
重ねた唇を割って、リンの口の中に義之の舌が侵入してきたからだ。
義之はそのまま、腕をリンの体に回した。
ふわり、とあの香りが漂った。
甘い、しかしどこか凛とした強さがある香り。
「んっ…」
差し込まれた舌が、リンの舌を探るように動いている。
どう応えればいいのか、わからないまま…
リンも必死で、舌を絡ませた。
「俺の部屋、行こか」
唇を離し、義之がつぶやくように言った。
その顔は、「大人の男」のものとなっている。
「ええんやな、ほんまに。俺、止められへんで」
義之は一応、リンに確認する。
「うん、いい。ヨシくんやったら、いい」
リンも、覚悟を決めた。
きっかけは「偶然」だったが…
思いを受け入れてくれたことが、嬉しかった。
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