世界から見た日本と日本人が見た日本がなぜ乖離するのか:今後の経済復興・観光需要復興への示唆(2021年7月)

米国に連続で21年、日本国外は合計29年超在住している社会科学系の米国博士研究者です。 医師ではありません。統計学、ファイナンス、経済効果計算等の授業を大学院で教えていますので、数値は人並みには読めると思います。ここ2週間ほど、10名を超える複数の日本の方々から問い合わせを受けて、ぜひ指摘しておきたいという事が出てきましたので、ここに記載させて頂きます。自分の主観を抑えて客観的な事を述べたいので、出来る限りデータを引用します故、ぜひご自分で判断して頂くと幸いです。

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1.日本のCOVID19対応に不満?

先月、1年半振りに訪日出張しました。今月は米国の自宅に戻り、米国大学の授業を教える一方で、日本の大学や観光関連組織向けのゲスト講義やウエビナーを行っています。そこで分かってきたことは、日本人は「日本(=日本政府)がCOVID-19対応を上手くやっていない・不満だ」という意見が過半数(2/3程度)に見えるという事です。米国、いや世界から見た日本のイメージと全く逆です。

「日本が上手くやっている? それは偏向報道だ」という反応をされた方、ぜひ上記の表をじっくり自分でご覧ください。これは総感染者数・総死者数等を国別に多い方から順番に並べたものです。データ元は表の下部に記載しています。この表を見て、感染者数トップ10か国の誰でも日本のCOVID-19対応を見て称賛こそすれ失敗だと判断する人はほぼ居ない点ご理解頂けると思います。特に人口規模の異なる各国を比較する際に重要な指標は右側の「百万人当たり感染者数」と「同死者数」です。どちらも日本は他国比で突出して桁違いの優等生であることが一目瞭然です。それが世界から見た日本のイメージなのです。

2.欧州サッカー選手権と米国大リーグオールスターゲームが狂気の沙汰に見える理由の分析

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これも複数の皆様からコメントを聞かれた件です。先週は英国で欧州サッカー選手権、そして米国大リーグのオールスター戦が開催されました。どちらも満員の観衆がほとんどマスク無しで応援しており、感染者が増えそうで、「狂気の沙汰に見える。一体どうしてああいう事が出来るのか?」と言う率直な質問でした。これは日本と英米でどちらかがおかしいというニュアンスを含んでいる質問ですね。その理由はどうも比較的に簡単な事のように見えます。感染者数の増減を見るか、死亡者数の増減を見るか、どちらを国家の最優先事項として政策目標を置くかという観点で見てみましょう。

2-1. 感染者数という指標

感染者数は毎日大きく変動しますが、その数値を同じデータ源から米英日の三か国の過去一年半分の数値を見てみましょう。なお、横軸は2020年2月15日からで棒グラフは毎日の実数、線グラフは傾向を見るための1週間平均値推移値です。気を付けて頂くべきは縦軸です。参加国での縦軸のスケールが異なります。米国は上限値が40万人、英国は7.5万人、日本は1万人です。

米国を見ると、最悪の時期は今年の1月初旬で、当方のように住んでいる人間の実感とも一致します。議会が暴徒に襲撃された事件があり、当時の大統領はCOVID-19対応よりも自分の再選工作に興味があるのではという言動をしていた時期で一日の感染者が30万人を超えている日があるように見えます。英国も同じような時期が感染者数のピーク(一日7万人程度)でしたが、日本は同じ1月初旬と5月にも感染者数(一日7千人程度)のピークがありました。で、最近の三か国感染者数データを見ると、当方が赤丸を付けた部分ですが、米国でほんの少し、日本で少し、英国では明白に感染者数が増加傾向に見えます。その意味では、感染者数推移を見る限りは、英国のサッカー選手権(Euro2020)開催は首をかしげる判断に見えるかもしれません。

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2-2. 死亡者数抑制という指標

最近、感染者数・死亡者数データ共に世界一豊富なデータ蓄積のある米国で明らかになっているのは、感染時の重症・死亡リスクがより高い高齢者へのワクチン接種が進行すると死亡者数が抑制できる事です。確かに死亡しなければ治すことが出来る確率は高く見えます。(最初の表での感染者数、回復者数、死亡者数をご自分で比べてみてください)。では、国家の最優先政策目標をCOVID-19死亡者数抑制とする場合、実際の数値はどう推移しているのでしょうか?

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三か国の過去1年半のピーク時はほぼ感染者数と同じタイミングに見えますが、感染が始まった初期の段階で米英両国に山があったのが見えます。ところが最近の状況を見ると、米国も英国も見事に死亡者数抑制が出来ていますね。故に「死ななければほぼ治るならば、死亡者数抑制政策を最重点にして、経済再開のような、その他国家優先事項にも舵を切ろう」という政策選択肢の幅が確保できます。英米両国とも見事に抑え込んでいるのが明白に見えますね(赤丸部分)。では、国民が、いや自国のメデイアが自国政府を執拗に批判している日本は死亡者数抑制についてはどうなっているのか、と実データを見ると、何と米英に優るとも劣らない卓越した結果を出している、しかも議論の余地がほぼ無いほど見事にです(赤丸部分)。再度申し上げるならば、この3つのグラフも縦軸のスケールが異なります。米国は最高で一日4千人死亡(鮮烈な恐怖心を住民として覚えています。)、英国は1500名超、日本は一日だけ200名超なので、スケールを合わせれば日本はまさに「さざ波」以下のレベルです。

つまり、「感染者数」という元々ベストではない指標がワクチン接種が進行するにつれてますます時代遅れ、世界基準と離れつつある不適な指標になりつつあるのに、日本人の多くがそれに気づかず、感染者数で一喜一憂するようにメデイアに情報操作されてしまっているから、英米の政策判断が「狂気の沙汰」に見える訳です。

但し、印象というのは双方向ですから、これは米国を含む世界から見たら逆に見えるという事です。つまり「無観衆試合」や「客のいない空港」のような経済再開を犠牲にしても「感染者数増加を抑え込む」のは「狂気の沙汰」に見えてしまう訳です。しかし、以上を申し上げると「騙された政府が悪い」「騙したマスコミが悪い」と他者を批判する言い訳を言う人が多そうなのは日本人・国民の情報消費者としての個々人の能力問題です。

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全てではないでしょうが、過半数の日本語マスコミは感染者数推移で一喜一憂するような情報のみを供給していた時に、スマートフォンもインターネットも日本中にある環境で、情報消費者である皆様は無料で自由に欧米メデイア情報を検索・確認出来た訳ですが、それをする方々がもう少し居たら、ここまで日本人の皆が悲観的・批判的にはならなかったのではと思います。同じ2021年6月に当方が自分で撮影した成田空港とシカゴ空港の写真を載せておきます。

3. 世界から見た日本人の過剰な悲壮感の存在

これについては、以前にもご紹介した、COVID-19が流行した初期にマッキンゼー社が作成した図を引用します。日本人は元々世界情勢に悲観的なのですが、「COVID-19後の経済復興に対する楽観度」を示されたのがこれです。縦軸が上が楽観的、下が悲観的ですが日本は世界各国の底に位置します。(左下の写真は当方が添付したものです)Source: McKinsey 2020

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この過剰な悲壮感は日本国内にこもって日本人と日本語で会話をして日本人同士でビジネスしている分には皆同類であまり気にしなくて良いですが、世界との競争、特に観光のようなイメージやブランドで訪日経験をしてもらい外貨を稼ぐというインバウンド観光立国絡みの世界の潜在消費者向けマーケティング業務を行う際には致命傷を負う可能性に結び付きます。

4. 世界から見た日本

今から9カ月前に英語で"These could be the most popular travel destinations after COVID-19" (コロナ後に最も人気が出る観光地はこれらだ)という記事がありました。まずはその記事の写真をご覧いただければ。

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東京に住んでいる方々はこれがどこか気付かれたかもしれませんが、見出しの写真が浅草の浅草寺なのです。「コロナ後に最も人気が出る観光地はこれらだ」の見出しの記事の写真です。日本の日本語メデイアだけを過去1年半見てきて「日本は酷い」「日本は失敗している」という偏向報道だけを消化してきた人達には目まいがする程、逆のトーンに見えるでしょう。

この記事の中にあるのが、世界の観光地を地域別に分けて、その中でアジア諸国だけを国別に分けて、縦軸が「健康・清潔度」横軸が「観光地国際競争力」として2次元に並べた図です。例えばその両方の尺度で劣るとサハラ砂漠以南のアフリカのように左下に位置することになります。アメリカ地域はほぼ中心、アジア太平洋も平均値は少しだけ中心点から右上です。この図では「健康・清潔度」、「観光地国際競争力」共に優れると右上に行く訳ですが、二位のオーストラリアを引き離し、世界のトップは何と日本なのです。きちんと英語報道を自分で見る癖があれば実はCOVID-19下でも世界は日本をこう見ているという補正が出来るはずですし、「英語は苦手で」という言い訳が昔ほど通用しないのは、スマートフォンで無料でゴーグル等で翻訳は即座に見れる環境があるからです。

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ところが英語で世界のメデイアを自分で見ない人達は、「日本語記事に多い事実だか誇張だかわからない内容で読者を刺激して、どんどんシェアしてもらうための『煽り記事』」に引っ掛かって自国の印象がどんどん悪くなるという構図が日本の外から見るとよく見えるのです。具体例を一つ上げましょう。

発生した時には日本中が大騒ぎしたが今やその名前も聞かない「ダイヤモンドプリンセス号」が横浜港に居た際には、当方の友人複数も「どうしよう、もう怖くて外歩けない」と言うコメントを付けて煽り記事をFacebookでシェアしていました。その中の一つが「コロナの統計分析:ダイヤモンドプリンセス号で分かった7つの教訓」という記事です。一部引用します。

「人口に占める感染者数の比率は急速に上昇するが20%程度で収まり、その9割が軽度で終わる。しかし、5%の人は重症化する。手当をすれば死亡者はその半分以下の2%に抑えられるが、医療崩壊すれば重症化した人は助からない可能性が高い。医療崩壊とは、コロナ以外の手当もできなくなるということであるから、他の疾病での死者も激増するだろう。何もしなければ、人口1億2600万人の日本において、新型コロナウイルスだけによっても50万人が死亡し、医療崩壊すれば100万人以上が死亡しかねないということを意味する。」 

1年少し経過してこの記事の数値と実数を比べる事が出来ます。当初の表にある通り、人口に占める感染者数は20%ではなく、0.6%、死亡者総数は50万人~100万人ではなく、1.5万人。で、ひどい煽り記事を書いても何ら社会的に罰せられず、煽り記事をシェアした人達は責任どころかシェアした事自体ももう忘却して覚えていないというのが現状総括でしょう。もう少し情報消費者が自分で数値を確認し、英語メデイアで自分が日本語偏向報道に騙されていないかを確認すべきではという事例です。外国籍船舶が外国籍船長の支配下にあった訳で、国際法上日本が助ける義務は無かったのに(故に最初の緑の表でも日本の下にあたかも国家のように引用されています)、そういう冷静な指摘はシェアされず、善意で援助した日本を自国メデイアが徹底的に批判する図は海外から見てそう美しいものではなかったです。その経験のお陰で自衛隊や関連省庁に他国より早く知見が貯まったので、ここまで優等生としての実績を実現出来たという点はあるかもしれません。

では昨年5月に日本を貶める日本語記事があり、9月には前述の世界の観光地で衛生清潔度と国際競争力で日本がトップだと述べた英文記事があった訳ですが、その英文記事では日本についてどう書いているかをみましょう。

"Japan and Australia ranked highly for destination competitiveness before the pandemic. They both mounted strong responses to COVID-19, but others reported even fewer cases. In theory this could nudge tourists towards those other Asia Pacific destinations, such as Vietnam and Thailand, that have had very few cases by global comparison.

On the other hand, when compared to other countries in the world, Japan and Australia have been successful in controlling the pandemic, and also have a long history as top destinations given their cultural and natural assets. By marketing themselves as health-aware given their strong underlying health and hygiene infrastructure, as well as destinations offering unique cultural and nature-related experiences, they will likely retain their competitive edge."

訳文

「日本とオーストラリアは、パンデミック前の目的地の競争力でも既に上位にランクされていました。 彼らは両方ともCOVID-19に対してしっかりとした対応を示しましたが、他の国々はさらに少ない症例を報告しました。 理論的には、ベトナムやタイなど、世界的な比較ではほとんど(COVID-19の)ケースがない他のアジア太平洋の目的地に観光客を近づける可能性があります。

一方、世界の他の国々と比較すると、日本とオーストラリアはパンデミックの抑制に成功しており、文化的および自然的資産を考えると、トップの観光目的地としての長い歴史があります。 基盤となる強力な健康と衛生のインフラストラクチャの存在、および独自の文化的および自然関連の体験を提供出来る観光目的地がある点を考慮して、健康や衛生面の優越性を意識したマーケティングをすることにより、彼らは国際競争力を維持する可能性が高いと見られます。」

世界から見た日本と日本人が認識する日本の間に決定的な乖離が存在することが理解出来ましたでしょうか? 

世界から見てCOVID-19明けに一番行きたい観光地日本、それは経済効果と国際収支で見るならば、日本の急速な観光輸出産業の回復を意味しますが、「日本は酷い」というかなり意図的なキャンペーンを続けた日本の多くのメデイアの偏向報道により日本人の世界に比類なき悲観的世界観が増幅されて、せっかくの輸出産業急復興・地方創生政策の中核である域外からの外貨獲得のビジネスチャンスを自滅で逃す可能性があることを懸念します。日本のインバウンド観光従事者の方々に一番お伝えしたかった点です。

もし、この記事を見て日本語偏向報道に騙されていた点、自分で海外メデイア情報を確認しなかった点、日本(政府と皆様)が実はよくやっていたのに評価していなかった点について気付いて、申し訳ない、ならば日本(政府と皆様)にとって何か役立つ事をしたいと感じて頂く方が居たら、「自分の順番が来たらワクチン接種を早急に実施する事」をお勧めします。ワクチン接種の進行は自分の大切な家族や周囲を守るだけでなく、地域・社会・国家の素早い経済復興に直結します。

ワクチン懐疑派の方々が米国にも日本にも居られるのは承知しています。これについて議論すると別のNote書かなくてはならない量がありますので、ここでは要点二つのみ。(1)日本に生まれ育った皆様は既に各種ワクチン接種経験があるはずです。ジフテリア、破傷風、水疱瘡、結核、日本脳炎、風疹、ポリオ等、皆様が覚えていないだけで、お母さんが「我が子が病死せずに成長するように」と皆様に予防接種を打っていたから大人になっている訳です。ワクチン懐疑派が居たらポリオとか根絶出来ていないはずです。(2)米国では既に決定的な統計が出てきています。「過去6か月のコロナ感染死亡者の99.5%はワクチン未接種者」(つまり米国でのコロナ感染と死者はほぼワクチン未接種者の問題となっています)。


5. 次回予告 

米国の急速な経済復興の状況とそこから日本が急速な経済復興を自らデザイン出来る点については、長くなりましたので次に分けてまた記載します。

米国フロリダ州のホテル稼働率は3週間連続で70%を超えており、非正規職員の時給が市場価格で時給$15を超えているのは何故か、COVID-19後にどの産業セクターが一番早く復興したのか、それは何故かを知る事で、日本での同様な経済復興を作り出すことが出来ます。実際に米国に住んで勤務しているが故に見えるいくつかの視点をご紹介します。(次回の内容)


大変恐縮でございます。拙文、宜しくご笑納頂ければ幸甚です。原 忠之(はらただゆき)