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1. フロリダ州観光産業現状報告(1)6/7/2020 Tourism Industry Updates in Florida (1)

6/7時点で総感染者数は199万人、死亡者総数は112,153名(総人口は3億3千3百万)と世界トップ感染国の米国ですが、人口2100万人のフロリダ州は総感染者数63,938人、死亡者総数は2,700名と、対日本で総人口1/6にもかかわらず、日本の数値17,103人、914名の3倍強の被害です。日本との比較では約20倍の感染者・死者数ですが、全ては相対感であり、米国人が米国国内他州(人口や経済規模が大きいニューヨーク州やカリフォルニア州)と比べると、フロリダ州が優等生に見えてしまう背景があります。

フロリダ州の現状については先週前後に当方のFBに掲載したのですが、人口比で日本全体の20倍程度の被害を受けながらも、フロリダ州の方が経済再開・観光産業再開には前向きで且つ再開速度実行が早いのです。日本の自宅待機・経済自粛派からすると狂気の沙汰に見えるかもしれませんが、「何故か」を掘り下げて考えると、今後の日本観光地再開への代替案・経済復興戦略に役立つ事があると思います。(写真は数年前にオーランドで撮ったもの)

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「フロリダ州とオーランド(オレンジ郡)」

オーランド(行政区域はオレンジ郡)は人口140万と、日本だと京都市程度の規模です。そこに年間75百万人(2019年)と全米最高数の訪問客が訪れます。意外と知られていないのですが、ニューヨーク市が65百万人(2018年)、ラスベガス市が43百万人(2019年)なので、オーランドの凄さが見えます。州別で言うと、ハワイ州全体で10百万人(2019年)、フロリダ州は126百万人(2018年)と、米国内では圧倒的な観光立地ですが、日本から遠いので、その感覚が分かりにくいかと思います。 フロリダ州内で一番観光客が来るのがオーランド(オレンジ郡)で半島の真ん中あたりなので、セントラルフロリダと言います。Google Mapに赤で丸付けたあたりです。

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半島と言っても、伊豆半島、紀伊半島よりは大きく、地図上の上部、フロリダ州北部のジャクソンビル(見出し写真がAMTRAKのジャクソンビル駅:ニューヨーク市発オーランド経由マイアミ行きの寝台特急列車「銀星号」)からマイアミだけでも、名古屋から下関ぐらいの距離があります。

「オーランド地区のホテル稼働率推移」

Hotel Weekly ADR & Occupancy in Orlando
Weeks   OCC%   $ADR
4/26-5/2  16.8%     $63.21
5/3-5/9   16.4%   $63.50
5/10-5/16  20.0%   $64.95
5/17-5/23  22.5%   $64.16
5/24-5/30  24.5%   $66.85
6/1-6/7   まだ   まだ
Source: made by the author based on VisitOrlandoNewsletter

稼働率と平均客室単価はジワリと上昇しています。6/5にユニバーサルスタジオ営業再開なので、今週の数値は楽しみです。なお、全米平均のホテル客室稼働率は5/24-5/30の週で36.6%まで復帰しています。全米平均の損益分岐点(利益も損も無い水準の売上を確保する量)が37%と言われていますので、米国ホテル産業は今週にはそのレベル超えに達してくるかもしれません(全米都市部での抗議行動の影響があるので、不透明ではあります)。

「フロリダ東海岸から夢のようなデータ」

スミストラベル社編集のデータ(Data: SmithTravelResearch)ですが、小生自宅から一番近い海岸であるフロリダ州東海岸のココアビーチ、メルボルン、パームベイ地区の5/29-5/30の週末ホテル稼働率で凄いデータが出ています。

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種を明かせば、スペースXの打上見物特需なのですが、注目したいのは、フロリダ東海岸は人口密度希薄、そよ風が常に吹く低層建築が多い場所で、当方の知る限り、過去2カ月ほど、フロリダ近隣客向けにかなりウエブやFBでのマーケテイングを仕掛けていた経緯があります。実際に当方も車で見に行ったのですが、レストランやホテルも3週間前の時点で距離を確保した新オペレーションを確保して、それを積極的にオーランド住民に宣伝していました。(ココアビーチ:筆者撮影)

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「日本に観光客が戻るタイミングは?18か月後?其れで良いのか」

日本での皆様の議論は当方はウエブで拝見するしか方法が無いのですが、最近一番危機感を感じるのが、「18カ月間はインバウンド観光需要は戻らない」という論調。「インバウンドなんてとんでもない。日本人が18カ月戻らない」という人も居られるかもしれません。ならば18カ月後にどさっと勝手に戻ってくるという発想でしょうか?

当方は現在、大学院生向けに応用統計学を教えています。もう5年目になりますが、100%オンラインで、ストリーミングビデオ方式(Zoomのようなリアルタイムではない)により、リモートアプ方式で統計解析ソフト(SPSS)の使い方を教えて、個別に実際にデータ解析してもらう授業です。そこでは当然に正規分布 (normal distribution) を教えます。

その概念を利用して、イノベーションの理論を説明しているのを聞いた事はありますか?  

では、この正規分布をネガテイブショック後の旅行客復興需要に応用してみましょう。上のベルカーブが統計学上の正規分布、下が同じ形状ながら、新たな商品やイノベーションを利用する人の度合い(Y軸)、そして横軸(X軸)はタイミングとしましょう。当方が黄色で書いたのは、xxーMとありますが、現在から見た月数と考えてください。確かに一番多い数は正規分布の中心値、平均の18か月後ですが、それよりもっと早く、4カ月以内に既に戻ってくる客層は確実にいます。この表を議論したのが2020年5月でしたので、2020年9月までに戻る好奇心満載の旅行客が2.5%、その人達が掲載するFBやInstagramを見て、じゃ、行こうかと戻ってくるのが、次のグループで13.5%(初期グループの5倍程度の量)が2021年4月まで、コロナ後1年で戻ってくる客層です。18か月後は2021年11月、まあ年末と言っても良いですが、その時点で全体需要の半分が戻る、つまり2019年度実績31百万人の半分、15百万人は2021年には戻るという予想です。2021年末までインバウンド観光復興需要ゼロ(日本の皆さんの予想)と2021年度15百万人(当方推測)では「ゼロ円対2兆5千億円ぐらい」の差があります(笑)。

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「観光需要は待つものではなく、取りに行く物」

では、早期に立ち上がる観光復興需要ですが、これは皆さんが能動的に取りに行かなくてはなりません。どうやって取りに行くのか? これが情報収集活動であり、諜報活動と言っても良いでしょう。「うちに来てください!」と情熱のセールスかけても、それは体育会系の発想(注:当方はラグビー体育会系なので、自虐的です)で対営業コスト生産性は低いです。ここが科学的定量的マーケテイング、まさに統計学を駆使して、一番旅行意図が高そうな属性情報の組合せのセグメントを探り出し、そこに一番影響力がありそうな情報伝達手段で各セグメントのニーズを把握して、そのニーズを満たすような観光商品組合せが貴方の観光地にあるかをデータをもとに作業する事でそれら早期復興需要セグメントが取れる可能性が高まるのです。

Destination Analysis 社のデータ見ると、自宅待機中の米国民に調査した結果、16-23歳のZ 世代と24-37歳のミレニアル世代は38-56のX世代、57-64歳のベビーブーマー世代よりも早期旅行需要が高く、また女性よりも男性の方が早期旅行需要が高い、また全調査対象の11.2%は、旅行再開となったら無条件で旅行再開する、47.1%は旅行再開に大いに興味あるが、慎重に決断すると言っています。 またこれは日米共通でしょうが、飛行機と旅行先施設や交通機関の新オペレーションの存在は旅行先選択に大きな影響があり、オンライン旅行商品購入のカギは若手世代は割引価格の存在、全世代では無料無条件キャンセルポリシーの存在が商品購入に影響を及ぼすようです。

「早期観光復興需要の証拠」

このリンクをご覧ください。オーランド発、今年の9月発訪日ツアーです。日本の皆様が心配で仕方なく、「日本人に8月ビーチ開放するか閉鎖か」の議論している同時期によりコロナ被害甚大な米国ではもう1カ月以上前から訪日ツアーを販売しています。ちょうど当方が掲載したグラフの4M(5月からの4カ月後)である9月訪日ツアーですね。

https://www.exoticca.travel/asia/far-east/japan  

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9月と明記されていますね。オーランド発往復航空券、宿泊代込み料金。

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一応何が料金に入っているか確認しましょう。

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コロナ後に不安感のある消費者を安心させる重要な手段はこれだと申し上げましたね。教科書通り。でも、基本的にクリックしたらその場でクレジットカードで全額決済するので、供給者側は手元流動性が確保できます。現預金、金融機関からの与信枠、そして現金収入確保が必須です。

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そして、早期観光復興需要により興味があるのは若い世代で、そのセグメントは割引料金に購入意欲をそそられると申し上げましたね。はい見てください。

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如何でしょうか? 18か月間何もしないで、防空壕に籠っていると、他の国に折角の早期観光復興需要が取られてしまうほど、他国の動きは日本のインバウンド産業関連の人々の発想より早い事が見えましたでしょうか。

「世界の早期観光復興需要獲得競争で日本が有利な理由」

潜在的旅行者が旅行先を選ぶ理由は、その土地の魅力(値段、観光資源、食事)の他にもSafety, security, cleanliness、のようなHygiene Factors 【衛生要因】があります。これらは水準以下だと、観光地選択時にマイナスの独立変数だが、水準以上あってもプラス要因にならないのです。
ところが、最近米国で聞く議論では、Hygiene Factorは以前よりも重要になっている可能性が高いのです。

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例えば、この品川駅の写真は以前には、日本とは如何に異様な国かというニュアンスで使われたような写真ですが、今は、「凄い、皆マスクをしている」(欧米では個人主義や利己主義感覚でマスクを固辞する人がいる)という点で、逆に日本という旅行先の安心感確認のために使える写真になっているという外的環境の変化があります。つまり、日本は世界の観光復興需要増加期にSafety, security, cleanlinessを全面に出して、他国よりもより多くのシェアを取れる、20-30年に一度の機会があると考えるべきです。インバウンド関係者が18カ月も無もしないで防空壕に籠っていたらその機会は韓国・台湾その他アジア諸国に行き、見事に逸失します。

「何故、米国観光地では復興計画実行が素早いのか-日本人の世界観」

まずは客観的な世界対象調査結果がありますので、これを俯瞰しましょう。(Source: McKinsey) 

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他者(他国)と戦う前には、まずは己を知る事が大切ですが、世界の中で圧倒的に群を抜いて悲観的なのが日本人です。(Y軸は上が楽観的、下に行くほど悲観的、X軸は家計消費額が右に行くほど多くなる予想で、左に行くほど家計消費額が少なくなるという予想)。日本人が他の日本人と日本で日本語で議論をしていると、この世界の中での自分の客観的なポジショニングの相対感を感じられなくなるのです。まして、防空壕に籠っているような環境ならば過剰な悲観論がドンドン深まる危険が一杯です。

一般の日本人が用心深く過激な悲観論を展開しても消費者心理が低下する程度の影響でしょうが、世界から輸出産業として外貨獲得する使命のあるインバウンド関係者がこのバイアスを引きずると、致命的な機会逸失に繋がります。 米国での国内、世界各地DMOからの情報発信の多さはまた別の機会にご紹介しますが、ラスベガス、メキシコ、アイスランド、多くのDMOからの情報が増えています。

「何故、米国観光地では復興計画実行が素早いのか-日米発想の相違」

成人後は海外生活・勤務の方が日本在住時期の倍以上あるので、この感性や発想の差をよく感じる事があります。日米の観光産業界から見た政府への期待感や不満を俯瞰していると以下のような差を感じます。

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*日米発想の相違:日本
新型コロナウイルスの影響で、県内の主要ホテルで臨時休業が相次いでいる。宿泊は政府や県の休業要請に含まれていないが、観光客の激減に県内での感染拡大が追い打ちに。利用客や従業員の安全確保が必要だと判断し、自主判断で休業に踏み切っている。背景には県の支援策が足りないとの不満もあり、ホテル関係者からは「県は判断が遅く、頼りにならない」と批判が上がる。
「宿泊事業者に対する補償などの明確な措置、方向性が示されておらず、苦情の声も聞かれる。県は休業補償などを含めさまざまな対策を講じてほしい」
「県からはまだ基準が示されておらず、何も決められない。方針を早く示してほしい」
➡「政府の指導に従って休業するが、(市長・県知事・首相は)再開時期や具体的な新オペレーション案を明示してくれ。」(政府任せ)


*日米発想の相違:米国
「政府の緊急命令に従って休業するが、各産業界はそのまま座して死を待つ(現預金消滅、与信枠も一杯で破産)よりは、再感染拡大リスクを取っても、業務再開したいので、そのリスクを業界に取らせてくれ。当然我々産業界で調整相談し、協調して段階的再開案を作る。」 

首長「ならば、民間経済再開委員会を作って、広く産業界と医療機関も含めて任命するから、再開案作成してくれ。内容が妥当ならばそれに従って実行してみよう。でも再感染したら再度閉鎖するリスクがあるから慎重に。自宅待機賛成派が安心して往訪してみる気になるような目に見えるCOVID-19対策を実施してくれ」
➡産業界が広く協調して委員会で自ら再開案を作成。首長が委員会案を承認・実施する際には産業界の全面的賛同が得られる。故に対応が早く、各産業の詳細が詰められている。
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「参考」

ちなみに、オーランドの委員会メンバーは以下のような人選です。観光産業だけでなく、また大手企業だけでなく、地元中小企業も入れる事で、経済再開への真摯な提案が早く出来る仕組みです。

オーランド(オレンジ郡)経済復興委員会、総計50名

AdventHealth, Scott Brady, MD, Senior Vice President of Ambulatory Services 大手病院専務
Alfond Inn, Jesse Martinez, General Manager 独立系ホテルGM
Black Business Investment Fund (BBIF), Inez Long, President and CEO 投資会社社長
CareerSource Central Florida Pamela Nabors, President and CEO 人材派遣会社
Central Florida Auto Dealers Association, Evelyn Cardenas, CEO 自動車販売業協会
Church Street Entertainment, Doug Taylor, Managing Partner エンターテインメント会社
City of Orlando & Orlando Venues, Allen Johnson, Chief Venues Officer オーランド商業団体
Curley & Pynn Public Relations, Dan Ward, President 広告会社
Darden Restaurants, Dave George, EVP and Chief Operating Officer 大手レストランチェーン会社
Don Julio’s Mexican Kitchen, Florencio “Larry” Rodriguez, Owner 独立レストランオーナー
Dr. Phillips Center for the Performing Arts, Kathy Ramsberger, President & CEO 劇場社長
Florida Department of Health in Orange County, Raul Pino, MD, Director フロリダ州衛生局部長
Florida Restaurant & Lodging Association, Keri Burns, Central Florida Regional Directorレストラン協会
Highwoods Properties, Steve Garrity, Vice President 不動産屋
Hyatt Regency, Brian Combs, Vice President ハイヤットホテルVP
J Henry’s Barber Shop, John Henry, Owner ヘンリーの床屋、オーナー(写真添付)
John Michael Exquisite Weddings & Catering, Michael Thomas, Owner ウエデイングとケータリング会社
Johnny Rivers Grill & Market, Johnny Rivers, Owner 独立レストランオーナー
Kissimmee/Osceola County Chamber of Commerce, John Newstreet, President/CEO 商工会議所
Lake County Agency for Economic Prosperity, Brandon Matulka, Executive Director レイク郡経済開発局
C. Spa & Nail Spa, Mary Chau, Founder and CEO ネイルサロンオーナー
Merlin Entertainment, Adrian Jones, Global New Concepts Development Director 英国系大手娯楽会社
Mosaic Hair Studio, Mike Van den Abbeel, Salon Owner ヘアサロンオーナー
National Entrepreneur Center, Jerry Ross, Executive Director 起業家センター
Nelson, Mullins/Broad and Cassel, Wayne Rich, Of Council 地元政府系か
Orange County Public Schools, Barbara Jenkins, Ed.D, Superintendent オレンジ郡教育局
Orlando City Soccer Club, Alex Leitao, CEO オーランドサッカークラブ社長
Orlando Health, George Ralls, MD, Medical Chief Quality Officer 地元大手病院
Orlando International Airport, Phil Brown, CEO オーランド国際空港社長
Orlando Magic, Alex Martins, CEO オーランドマジックバスケットボール社長 

Orlando Shakespeare Theater, Douglas Love-Ramos, President 劇場社長

Prospera, Augusto Sanabria, President and CEO スペイン語系の起業家
Rejoice in the Lord Ministries & President, African American Council of Christian Clergy, Pastor Roderick Zak, CEO 黒人教会社長
Rosen Shingle Creek, Dan Giordano, General Manager 大手独立系ホテルGM
SeaWorld Parks & Entertainment, Brad Gilmour, Vice President of Operations 大手テーマパーク幹部
Seminole County Government, Tricia Johnson, Deputy County Manager/Chief Administrator for Community Relations and Economic Development セミノール郡経済開発局
The Mall at Millennia, Steve Jamieson, General Manager 現地大手ショッピングモール
The Trentham Santiago Group, Conrad Santiago, CFP®, MSFS, Private Wealth Advisor 富裕層投資顧問
The Vineyard Wine Bar & Healthy Bistro, Deborah Linden, Owner ワインバーオーナー
Truist, Sandy Hostetter, Central Florida Regional President 地元金融機関
UCF Rosen College of Hospitality Management, Youcheng Wang, Ph.D., Dean 教育
Unicorp National Development, Chuck Whittall, President 不動産開発業者
United Safety Council, Chris Earl, Director 運転教習所
Universal Orlando, Rich Costales, Executive Vice President of Resort Operations 大手テーマパーク
VMD Ventures, LLC, Harold Mills, CEO IT系会社
Walmart, Inc., Monesia Brown, Director of Public Affairs and Government Relations 大手スーパーマーケットチェーン
Walt Disney World Resort, Thomas Mazloum, Senior Vice President, Resort & Transportation Operations 大手テーマパーク
WaWa, Inc., Todd Souders, Senior Director Florida Operations and New Market Development 大手ガソリンスタンドチェーン会社
Wyndham Destinations, Frank Goeckel, Senior Vice President, Strategy, Integration, and Acquisitions ホテル、タイムシェア開発保有運営会社
YMCA of Central Florida, Dan Wilcox, President & CEO スポーツクラブ会社

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大変恐縮でございます。拙文、宜しくご笑納頂ければ幸甚です。原 忠之(はらただゆき)