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白雪姫《王子視点の悪夢》




“めづらかなるちごの御かたちなり“


僕の住む隣の国にまで噂は流れてきた
『誕生に神の祝福を』と伝える前に
小さな君の黒褐色の瞳に僕は魅入られた


七つの歳には完成された美貌のお姫様
最初におかしくなったのは実の父親で
彼女を歪に手折ったのだと
嫉妬で母親に城を追われたのだと


知っている
だって僕は君をずっと見ていたから


十にも満たないお姫様
女親の策略に 死線の綱渡り
男親から離れた後も 何度も 何人も
下卑た手で 狂喜の欲で
内から外から君を暴き散らしていく


雪の白さで心の異常を覆い尽くして
それが当たり前かのように笑みを湛えて
君は全てを受け留め続ける


吐き気がした
何故ずっと君は美しいままなんだ


『もし、神がいるのならば』
彼女は何も悪くないんだ誰もその眼に映させないで笑顔を浮かばせないで言葉を紡がせないで彼女と世界を切り離してくれそしたら雪は降らずに済むんだ彼女と僕を助けてくれ神よ神よ聞いているか神よ
『彼女の魂の救済を』
祈って望んで希う



ある日突然 願いが叶った


瑠璃の棺と香華に囲まれて
臥やす傾城のお姫様
朝は濡羽色の髪を櫛って 夜は香油で拭ってあげる
君のその身も 僕の心も 朽ち果てるまで側に居るから
閉じられた箱庭でごめんね 許して欲しい



僕は知らなかったけど
魂の救済には時間制限があったらしい
君の時計が動いてしまった
開かれた黒褐色の双眸 褪紅の唇 
産毛の光る水蜜桃の頬 鈴を転がすような声
悲しいかな 君はやはり とてもとても美しい


ああまた君は生きながら地獄で踊る羽目になる
白い雪が日毎夜毎を塗り潰す
それが君の知る日常だから
無知こそが神の御慈悲だったのかもしれない


動かない死体のままなら
僕のものだった
僕だけのものだったのに


『穢れの姫のくせに』


言葉が僕の口を衝いた
とっくに僕は狂っていた







[寝覚めが最悪]

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