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坂本忠恆
2022年12月25日 21:00
誰かになりたいと望むことは、恐らくはその他人に対するもののなかで、最大の親愛の証の一つであろう。惟子も今しがた、芳香との同化の果てに母親の時代へ回帰したいという嬰児退行の夢を見た。そしてまた恐らくは人は、斯様な自己を介した透視術によってでしか、他者を見ることも能わぬのであろう。然あれば、人は、凡ゆる愛と名の付く感情に於いて、自己愛を介してでしか、その愛の情を果たすことも叶わぬのであろう。初めから